年をとっていくのだ

橋口幸子『いちべついらい 田村和子さんのこと」読了。

いちべついらい 田村和子さんのこと

いちべついらい 田村和子さんのこと

年をとっていくこと、孤独、記憶、いろいろ考えながら、胸に何かつっかえているような感じをおぼえながら読み終えた。和子さんや著者と同じように、わたしも年をとっていくのだ、これまであったいろんなことを抱えて。


著者が田村和子さんの家に間借りすることになったとき、和子さんは49歳だったという。ねじめ正一の『荒地の恋』に描かれていた内容とほぼ同じようにものごとは進む。著者は作品中で、『荒地の恋』の和子さんは、ほんとうの姿とちょっと違う、と書いているけれど、わたしは『荒地の恋』の和子さんも、『いちべついらい』の和子さんも、どちらもとても魅力的だと思う。


二人の詩人も和子さんも、やってることはめちゃくちゃだけど、本人たちは生真面目に、一生懸命考えて生きてきたってことがよくわかる。誰になんと言われようと、そうするしかなかったんだろう。作品の舞台が自分にとって馴染み深い鎌倉の地ということもあって、著者の描く和子さんと著者自身の50代以降の日々に、どうしても自分自身の未来を重ねてしまう。


いやいや、会社勤めもしてるし、同居人もいるし、全然状況違うでしょー、と自分で突っ込んでみたりする。でも、そういうことじゃないんだな。和子さんと著者の年のとり方が違うように、わたしはわたしなりのやり方で、でも確実に年をとっていくのだ、ということ。あたりまえだけど。そしてこれからどんなふうに年をとっていくのかは、これまでどんなふうに生きてきたかということを反映しているというか、これまでのことの「記憶」を抜きにして生きていくことはできないんだな、ということを、あらためて感じたのだった。


いい本だった。自分にとって大事な一冊になると思う。