怒濤の2023年〜とにかく続けることが大事

怒濤の2023年がまもなく終わる。『オリンピア』刊行が決まってからの日々があまりに濃厚だったので、なんとなく今年は『オリンピア』一色だったような気分になっているけれど、手帳を繰ってみると実際は1月は指導書一色で、2月からは河出の〈14歳の世渡り術〉シリーズ3点がゆるやかに同時進行し(うち2冊は年内に刊行済み)、さらに光文社古典新訳文庫の『ドラキュラ』には6月のイギリス旅行を含め公私混同ぎみで取り組み、5月から三省堂の教科書アンソロジーの許諾作業に着手(無事年内校了した!)。という具合に、ほかの仕事もずいぶんいっぱいやっていたみたいだ。見習い期間だったとはいえ、英文学会事務局の仕事も4月から始まって、11月12月は『オリンピア』刊行後のめまぐるしい忙しさの中、ほぼ週2回、飯田橋の事務局に通っていたというのは、我ながらよくがんばったのではないかと思う。

 

さらにボランティア仕事も多い1年だった。自宅のマンション組合の理事の順番がまわってきてしまい、その分担でコミュニティ協議会というのにも参加しなくてはいけなくなり、月2回土曜日の午前中がつぶれる。趣味のクラブの機関誌編集のお手伝いと大会準備委員を引き受けてしまったため、こちらもそこそこ時間をとられる(こっちは趣味のクラブなので喜々としてやっているけど)。この状況は来年ももうしばらく続く。

 

幸い近くに住む母がとても元気で介護等の心配はなく、子供もいなくて同居人はまったく手がかからない(というか洗濯もしてくれるしお弁当も作ってくれる)ので、仕事や自分のことに没頭できるありがたい環境であることは間違いない。忙しさのしわ寄せが何に来ているかというと、やっぱり「読書」である。とくに『オリンピア』の刊行が決まってそれにともなうもろもろの作業がはじまってから、ほとんどまとまった読書の時間がとれなくなった。唯一死守している週1回のお休みの時にも、ついスマホでいろいろな情報をチェックしてしまったり疲れて寝てしまったりして、鞄に入れている数冊の本を開くこともなく過ぎてしまったりしている(ちなみに同居人はどんなに忙しくても淡々と本を読み続けている。そしてその本が面白いとか面白くないとか、他人にとってはどうでもよい情報を延々と報告してくれる!)。

 

一方で、本をめぐる情報がこれまで以上に入ってくる環境になったこともあり、買うほうはものすごく「お盛ん」だ。じゃんじゃん買って、じゃんじゃん積む。すっきりきれいだった自室が、だんだん同居人の部屋のようになってきて、巨大な作業机の上のあいているスペースがなくなって、作業をするたびに机上の本を床におろし、部屋を出る際に通り道を作るため床の本を机上に戻すという、本に包囲されているような状況だ。来年はとにかく、本を積むだけじゃなくて読みたい。別に仕事に役に立つとか同居人のように立派な感想文を書くとかしなくてもいいのだ。以前のように興味のおもむくままに本を読み、すごい面白い!とか、うーむいまいちだったなとか思いながら、だらだら本を読む。これが来年の目標。

 

でも、この1年を総括するとしたら、やっぱり『オリンピア』なんだろう。1月の手帳のページに、・出版社化検討(〜5月)とある。この時点ではまだ、『オリンピア』自社出版の姿はまったく見えていなかった。2月に越前さんにメールを送り、奇跡のようにすべてが動き出した。2月11日の手帳には、手書きで『オリンピア』の奥付イメージが記してある。「発行所 株式会社北烏山編集室」と、誇らしげに書いてあって笑ってしまう。このときの奥付日は、2023年10月30日。横に「退職2年後!」と書いてある。そうだ、私が20年近く勤めた出版社を退職したのは、2021年10月30日だった。結局、実際の刊行はこれより2ヶ月遅くなってしまったけれど、何もかもゼロからはじめたことを思えば、まあ上出来なのではないか。(ちなみに越前さんの原稿はできあがっていたし、校正もものすごいスピードで戻してくれたので、遅れの責任は100%私にある。)

 

それからの『オリンピア』をめぐるあれこれは、11月終わり頃からのブログに書いてきた。その後、複数のイベントを終え、「どこでもMy FAXセンター」というタイトルの注文FAXや、「書店様からのご注文」というタイトルのBookCellarからのメールに一喜一憂する日々が続いている。(注文なのになぜ「一憂」するのかというと、「どこでもMy FAXセンター」からの注文FAXは、トランスビュー扱いのすべての版元さんあてのFAXが入ってくるからだ。期待に胸ふくらませてメールの添付ファイルを開いては、ああ、またよその版元さんのものだった、とがっかりする。最初のころは、ほかの版元さんのFAX-DMを見て、ああ、こんな本が出てるのか、とか、FAX-DMの作り方がうまいな、とかいろいろ思っていたのだけれど、送られてくるFAXの量が膨大なので、だんだん他社宛の注文に対しては「無」の境地でのぞむようになった。先日そのことを先輩の版元代表さんに話したら、「あ、あのFAXは全然見てません」とのことだった。たしかに、このFAXは見逃しても、ちゃんとBookCellarさんから注文のメールは来るので、別にいちいちFAXを開く必要はないのだ。ああ、それはわかっているのだけれど、やっぱりかすかな期待を抱いて、ひっきりなしに入ってくる「どこでもMy FAXセンター」の添付ファイルを、今日も休まずチェックし続ける……)

 

ひとり出版社や独立系書店の代表の方のブログなどを読んでいると、やっぱりお金まわりのことが精神的にも時間的にも大きな割合を占めていることがわかる。これは弊社の場合も同様で、会社を設立した時からずっと、経理はわたしが行っているのだけれど、『オリンピア』の刊行が決まってから、経理についての作業量も悩みも、格段に増えた。わたしはお金の計算なんて全然得意じゃないし、あまり関心もなかったのだけれど、いざはじめてみると、意外に面白いというか、新しく知ることやわかることがたくさんあって刺激的だ。新しく知ることやわかることの内容は、ざっくり言うと「なかなか厳しいね」とか「儲からないね」ってことなんだけど、じゃあこれをどうしたらいいのか、どうやって乗り切ったらいいのか、考えるのは、まあ楽しくないこともない。もちろん、「意外に儲かるじゃん」とか「右肩上がりで見通し明るい」とかだったら、そのほうがずっといいけど、それはないことを前提に仕事をしていれば、それが訪れたときの感動もまた百倍、というものだ。

 

さて、来年の自社出版については、すでに2冊の刊行が決まっている(おそらく来年5月)。未経験だった印刷〜流通の流れについても、苦手な経理作業も、とりあえず1冊やってみたから、来年はもう少しスムーズに進められるのではないかと思っている。ひとり出版社の先輩方からいただいた、「とにかく続けることが大事」という言葉を胸に、請負仕事やボランティア仕事や個人的な読書や経理を含む事務作業とバランスをとりながら、来年もがんばってみよう。

 

………さて、これから今年一番のお楽しみ。横浜イベントへ出発!