本は1冊ずつ売れていく

眠れないのでブログを書くことにした。一昨日、12月5日(月)は弊社刊行第一弾、『オリンピア』の発売日だった。会社設立から『オリンピア』刊行までのことをブログに書いてみる、という当初目標は一応終わったので、これからは従来どおりの「北烏山だより」に戻る。(といっても、この2週間ほどの書き込みも結局のところ情報量は少なくて自分の思い優先の日記になってしまったけれど)

 

サラリーマン編集者だった私たちが出版社をつくってここまで走ってきて、やっぱり一番難しいのは宣伝・営業だ。『オリンピア』について言えば、流通代行のトランスビューさんのおかげで、とりあえず発売日当日にこの本を手にしたい、と思ってくださった読者の方の手に、きちんと届けることができた。これから先も、行きつけの書店で予約してくれれば、それほどお待たせすることなくお届けできるはずだし、複数のネット書店からも、早ければ1日で購入することができる仕組みが整った。そして何よりも、予想以上にたくさんの部数をTRC(図書館流通センター)がとってくれたので、地元の図書館で簡単に入手できるはずだ。

 

翻訳者の越前さんのおかげで、イベントも複数企画されている。ひとつめの朝日カルチャーセンター新宿は、会場とオンラインあわせて50名近くの方に参加いただき、質問も多くでて、ありがたい感想もたくさん寄せていただいた。先行販売&サイン会つきだったからか本もよく売れて、お客様に直接『オリンピア』を手渡すという感動体験も味わうことができた。参加してくださった方々、朝日カルチャーセンターのご担当者さまにも、心からお礼を申し上げる。

 

このあと青山ブックセンター、京都CAVA BOOKSと、越前さん企画のイベントが続く。昨日は福島での読書会のお知らせもいただいて、版元としては感激して越前さんの後をよちよちついていくばかりだ。さらに年末には、国書刊行会の樽本さんのはからいで、海外文学の出版社の編集者がずらりと並ぶ恒例「よんとも年末スペシャル」にゲストとして呼んでいただいた。ここまでくるともう、身の丈にあっていないというか、どうしていいかわからない、というのが正直なところ。でも『オリンピア』のことを考えると、ひるんでいる場合ではない。越前さんや樽本さんからは「楽しんでやってください」と言われるから、あまり思い詰めず、自分がその時間を楽しく過ごすようにつとめたい。

 

そしてここまでは、トランスビューさんをはじめ周りの人たちのおかげで、なんとなく普通の出版社っぽく、販売のスタートを切ることができた。それだけだって奇跡だという気もするけれど、問題はこれからだ。いまはこの2週間ほどのあいだに予約発注してくれた限られた書店さんにしか在庫はない。たまたま最初に2冊注文してくれた書店さんの在庫をみたら、いまは0になっている。ということは、最初の2冊はお客様の注文で、それをお渡ししてしまったからいまは0。で、だからといって、自動的に追加発注があるわけもなく、ほとんどの書店さんがこういう状況のはずだ。このあと、どうしたらいいのか。やっぱり一件一件書店さんをまわる? 子供の頃から本やさんに行くのは大好きだし、ちょっとでも隙間時間があれば本やさんに入ってる人生だけど、でもそれとこれ(「書店営業」ってやつ)は、別物。迷惑じゃないかなーと思ったり、うまく話しかけられないですごすごと帰ってくる予想図が頭に浮かんだり、なにかと理由をつけて尻込みしている。

 

でも、発売日から3日が過ぎてあらためて実感したのは、本は1冊ずつ売れていく、ということだ。トランスビュー方式はそれがよりはっきりと目に見える形でわかる。日本のどこかの書店にお客さんが予約で訪れ、その1冊の注文が届く。トランスビューの倉庫から1冊が出荷され、書店さん経由でお客さんの手に届く。その一連の流れを思い描くことは感動的で、もうこれで胸がいっぱい、これで十分、という気持ちになりそうなんだけど、まてまて。この光景が、日本全国で、数千回繰り返されないと、『オリンピア』はトランスビューの倉庫で10冊ずつ茶色い紙にくるまったまま、じっと眠っていることになるのだ。かわいそうすぎるじゃないか、『オリンピア』が。やっぱり、日の目を見させてやりたい。ではどうやって、上記の風景×数千回を確保するんだろう。ほかの出版社さんはどうしてるんだろう。やっぱり「書店営業」ってやつか。そこへ行き着くのか。

 

SNS時代のいま、わたしたちのような極小出版社にとって、SNSは重要な宣伝ツール。だから、SNSを通じていろいろいやな思いをしたり、時間泥棒だなと思ったりしても、やっぱり手放せずにいる。サラリーマン編集者時代から、編集者が単独で、無料で宣伝活動できる媒体として、Twitterには本当にお世話になってきた。会社のアカウントについては同居人が熱心に投稿してくれているのでありがたい限り。おかげさまでフォロワーさんも増えて、この規模の出版社アカウントとしてはできすぎだと思っている。だけど一方で、いろいろな方が指摘されているように、TwitterじゃなくてXだけで情報発信しているのは危険だし、限界があるというのもわかっている。

 

で、新聞広告。たまたま今週の土曜日の毎日新聞に共同広告を出す、という話があって(これって事前に書いちゃいけない内容かな、だったらあとで消す)、はいはい、って手を挙げたのはいいものの、広告の作り方がわからない。二人とも、会社員時代は社内の宣伝担当者にお任せで、文面の校正をするくらいしかしてこなかったのだ。しばらく購入したばかりのイラストレーターをがちゃがちゃ触ってみたものの、現時点では無理、とあきらめて、急いで某サイトに登録し、超特急で仕事をしてくれるフリーランスの広告デザイナーさんにお願いすることになった。このサイトは、システムはよくできているし、お願いしたデザイナーさんはきちんと仕事をしてくれた。けど、私たちとしては、予定外の出費と時間の消費があったわけで、広告ができあがるまで、なんとなくイライラぴりぴりしてしまった。これで今週末に広告がでたからといって、いきなりすごい効果が出て注文が殺到するとはとても思えないし、広告が出た当日に一件も注文がない、ということだって十分予想できる。それでも結構なお金をかけて広告をつくり、共同広告を打つことに意味があるのか。よくわからないけど、今の気分としては、まあとにかくやってみましたーという感じ。何事も経験、というか。

 

この新聞広告が出る当日、わたしは前職のOB会に初参加する予定。営業出身の方もいらっしゃるので、できれば相談してみようと思う。本は1冊ずつ売れていく、ということを、会社員時代のわたしは頭では理解していても、実感を伴って納得してはいなかったと思う。わたしが編集者として一生懸命編集した本たちを、一人一人の読者に届けるために奮闘してくれた営業職の人たち(ただ前職は営業部員の大半が学校営業だったのでちょっと事情はことなる)。

 

ただ、営業については、「基本やらない」という小規模出版社の代表の方もいたし、「最初のころはやったけど、いまはほとんどやっていない」という一人出版社の方もいた。たしかに、『オリンピア』のことだけを考えて毎日を過ごすわけにはいかなくて、請負仕事のゲラを戻さなくちゃいけないし、次の本の入稿もしなくちゃだし、事務仕事見習いも、ボランティア仕事もある。それらとバランスをとりながら、『オリンピア』のこれからのこともちゃんと見守り、かつ、毎日を楽しく朗らかに過ごす。うーん、まあ、できないこともないかなあ。

 

深夜の書き込みは、例によってとりとめもなくなってしまった。ああ、もう朝だ。同居人が起き出す時間。ちょっとだけでも寝ることにしよう。