『ダロウェイ夫人』ほか
まとまった時間がとれたら……などと思っていたら、もう二度と書けなくなりそうなので、
早朝テニスと午後出社の合間の時間を使って、この10日ほどのことを大急ぎで書いておこう。
九州出張の間に読了した本は3冊。
前回書いた『作家の値段』とあと2冊だけ。
スーツケースの底の分厚い世界文学全集は、そのままお持ち帰り、となった。
まあいいのだ、精神安定剤みたいなものだから。
『ダロウェイ夫人』読了。
- 作者: バージニアウルフ,Virginia Woolf,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/05/11
- メディア: 文庫
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難しいとか言われてるけど、わたしにはどこが難しいのかわからない、ってくらい、しっくりきた。
翻訳のおかげかもしれないし、出張先のカフェやホテルというシチュエーションの効果もあるかもしれない。
大学1年か2年のとき、『英文学史?」という授業の最後のほうで、ウルフの話を聞いた。
「意識の流れ」について説明があって、素朴に「それって新しい手法なのかな?」と思った記憶がある。
先日のトークショーで、翻訳者の土屋政雄さんも、
意識の流れを追って読んでいくという形は、現代の読者にはなじみやすいものなんじゃないか、というようなことをおっしゃっていた。
だから、ウルフは難しい、っていうのは、誤解ですよ〜!と、わたしは高らかに言いたい。
うう、この作品については書きたいことがまだまだあるし、先日のトークショーの報告も書きたいのだけれど、
そろそろ会社に行く用意をしなくてはいけないので、先を急ぐ。
スーツケースを預けてしまってから、帰りの飛行機の中で読む本がないことに気づき、
あわてて空港内の書店へ。
だれかがどこかでおもしろい、と書いていたベストセラー小説を購入、読了。
- 作者: 湊かなえ
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自分に子どもがいないせいかもしれないけれど、主人公の中学教師にも、
出てくる子どもたちにも、全然リアリティーを感じなかった。
『ヘブン』を読んだときも思ったのだけれど、
現代の子どもたちをリアルに描こうとすると、陰湿ないじめ、ってのがもれなくついてくるのだろうか。
『告白』はもちろんエンタテイメントとして書かれたものだろうから、
サスペンスを楽しく味わえばいいのだろうけれど、
それにしても後味は悪いし、いい読書体験ではなかったな。(ただ、ページターナーとしての魅力はあったと思う。)
九州出張から戻ってすぐ、101歳でなくなった祖母の告別式へ。
2週間ほど前に、ちょっと弱ってきた、という話を聞いて、
会社を休んで老人ホームを訪れたところ、お天気も体調もよいとのことで、
叔父叔母と母と4人で、祖母を車いすに乗せて近所のフラワーセンターへ出かけた。
祖母はこの数年、別世界の住人になっていて、わたしのこともまったく認識しなかったのに、
この日にはちゃんと、「まりちゃん」とわたしの名前を呼んだのだ。
薔薇がきれいに咲いていて、「きれいねえ、持って帰りたくなっちゃうねえ」とも言っていて、
ああ、こんなに元気なら、まだまだ大丈夫、と思っていたのに、
出張先で訃報を聞いた。
明治生まれの祖母は、日本の激動の歴史を生きてきた人だ。
太平洋戦争中は巣鴨の刑務所にいた祖父を見守り、
戦後は政治家になった祖父を支えながら、母たち4人の子どもを育てた。
「がんばれ」「がんばりましょう」が口癖で、
頭がぼんやりしてきて老人ホームに入ってからも、
すでに会社社長や校長先生になり、いまや退職して悠々自適の息子たちに向かって、
「やっちゃん、がんばれ! かずちゃん、がんばれ!」と連呼していたそうだ。
叔父たちは「この年になって、何がんばれっていうのかね」と苦笑していた。
さらに祖母はとてもおしゃれで、小さな帽子をななめにかぶったり、
ピンク色のふんわりしたドレスを着たり、いくつになっても母たちのお手本だったらしい。
翌月曜日は会社で一緒に仕事をしてきた、勤続40年の大先輩の送別会。
司会をしなくてはいけないのでなんとか泣かずにすまそうと思ったが、
まわりのほかの人が(あまり泣かない人たちが)泣いてしまったので、
わたしが止められるはずもなく、涙、涙になってしまった。
告別式、送別会と、お別れの会が続く。
でも、どちらも101歳と(ほぼ)定年退職ということを考えれば、
悲しいというよりはこれまでありがとうございました、という感謝の気持ちや、
おつかれさまでした、という気持ちのほうが大きい。
火曜日、代休のつもりだったけれどやることがあまりに多いので出社。
水曜日、翻訳家時代の仲間と集まる。吉祥寺でランチ、そのあと我が家へ来てもらっておしゃべり。
同世代の仲間と話すのはほんとに楽ちんだ。
木曜日、退職された先輩の席に、20代のアルバイトの男性がうつってきた。
さわやかで礼儀正しい青年で、雑用も気持ちよく引き受けてくれる。
わたしの世代の女性からすると、男性に雑用を頼むのは、なんとなく気がひける。
今の世の中、そんなことではいけないのだろうが。
金曜日、待ちに待った早朝テニス! 先週は出張でお休みをしたので、2週間ぶり。
朝自転車でスクールに向かう途中、ダロウェイ夫人みたいな気分になる。
六月! なんて気持ちのいい朝!
準備体操をしながら、ああ、この一瞬のために生きているのかもしれない、と思う。
テニスを再開してよかった。やっぱりテニスが好きなんだな。
来週もまた出張。
どの本を持っていこうかな……と考えるのが、何より楽しい。