勝間和代と香山リカ

今日はなんとなくぼんやりと、この二人のことを考えていた。
先日、ある研究会で、この二人の対立を導入に使った公開授業を見たせいかもしれない。
もし、勝間和代香山リカ、どちらにより共感するか、と問われたら、
わたしは何と答えるのだろう。


このブログでも時々書いているけれど、
わたしは案外ハウツーものを読むのが好きなので、この二人の著書も結構、持っている。
それぞれ4、5冊は読んでいると思う。
勝間和代という人は、一緒にいたら疲れそうなので、友達になりたいとは思わないけれど、
彼女に憧れ、彼女の真似をして、カッコイイ働く女性になりたい!と思う人たち(カツマー、ですね)のことは、
理解できるような気がする。
たぶん、だれもが持っている自己肯定感とか向上心とかを、いい感じで刺激するのだろう。
わたしだっていまや企業の中でフルタイムで働いているわけだから、
この会社の中で自分がやりたい仕事を伸び伸びやるためにはどうしたらいいか、などと、時々考える。
もっと勉強しよう、とか、自分を変えよう、生活スタイルを変えよう、とか、さまざま殊勝なことを思い立ったりするわけだ。


一方で、香山リカの「そんなにがんばらなくてもいいんじゃない」というメッセージに、救われるような部分もある。
家族や友人に恵まれ、食うに困ることもなく、本にかかわる仕事ができている。
時々、理不尽だとか不公平だとか思うことはあるけれど、
まあ、波風は立てずにおこう。仕事で自分を追い詰めることはせず、趣味や家族との時間を大切にしよう。
そんなふうに思うこともある。


勝間も香山も理解できる。どちらも共感するけれど、どちらもインチキだとも思う。
それは、もしかしたらわたしが、この二人のちょうど真ん中の世代に属しているせいかもしれない。
(勝間は1968年、香山は1960年生まれ。)


1964年生まれのわたしの同期や先輩女性の多くは、結婚・出産の際にフルタイムの仕事を辞めている。
教員や公務員、医師や弁護士といった職業に就いた人ですら、夫の転勤や子どもの教育、家族の介護など、
それぞれの事情でフルタイムの仕事をやめて、パートタイムに切り替えたり、家族のゆるす範囲で趣味的な仕事をしたりしている。
そして、いまの若い人たちには意外かもしれないが、そういう選択をすることが、本人にとっても周囲にとっても、
ごく自然で、当たり前のことだったのではないかと思う。
そんな中で、今も働き続けている女性というのは、「特別」な人たち、という印象がある。
「女性としての幸せを犠牲にしてでも」とか、「男性と伍して働く」とか、まあ、そこまで悲壮ではないにしても、
それなりの覚悟というか、人とは違う道を選ぶのだ、という厳しさみたいなものがある。
(ちなみにわたしは、当時の「普通」をやろうとしたのに人生の荒波にのみこまれて気づいたら「特別」になってしまった、という、
「なし崩し組」なので、ちょっとテキトーなところがある…いや、だいぶ、か……。)
で、そんなふうに気を張っているこの世代の働く女たちにとっては、「がんばらなくてもいいよ」「少し肩の力を抜いたら」というメッセージが、
ものすごく心に沁みるらしい。
わたしがいろいろなことを犠牲にしてがんばってること、わかってくれてるんだ、
そのうえで、もうがんばらなくていいよ、って言ってくれるんだ、という感じだろうか。


一方、自分より下の世代、今の20代から30代の女性たちは、
最初から一生働くつもりで社会人になっている。
男性と同じように就職活動をし、スキルを身につけ、結婚退職など考えもしない。
産休・育休をしっかりと取得し、復職後もしなやかに働き続ける。
勝間和代がうまいのは、従来の男性ビジネスマン向け指南書に、女性向けのスパイスを少し効かせている、というところだ。
何も複雑なことは言ってない。本を読んだり、語学を勉強したり、食事に注意したり、お酒やタバコを控えたり。いいことばかりだ。
ブログを書くことも奨励している。ええ、ごもっとも。
日常的に文章を書くことは、仕事にプラスになるかどうかはわからないが、ストレス解消になってることは間違いないからね。


同じ1960年代生まれでも、前半と後半では、女性の生き方モデルみたいなのが、
ずいぶん違ってるんじゃないか、というのが、わたしの実感。
男の人たちや、それよりうんと離れた世代の人(いまの20代とか60代とか)にはきっとわからないと思うのだけれど、
このわずか10年ほどの間の変化は、わたしたちの精神状態に大きく影響しているような気がする。
「なし崩し組」のおまえに何がわかる、と言われそうだけれど、
つい先日、某一流企業に勤める5歳年上の女性と話していて、彼女もこの変化の中で、左右に揺れて悩んできたのだなあ、と感じた。
ちなみに、東大の女子大生の就職活動を描いたノンフィクション『クリスタルはきらいよ』でデビューした作家、岸本葉子さんは、1961年生まれ。
「特別」な働く女性を目指した岸本さんが、ガン闘病を経て、『ゆる気持ちいい暮らし術』というような本を書くようになったというのは感慨深い。


勝間和代香山リカ岸本葉子も、みんな、手放しで「共感」はできないけれど、
「わかる、わかる」という感じがする。読むことで、励まされたり、ほっとしたりする。
ハウツー本といっても、そうばかにしたものじゃない。
周囲の男性が彼女たちのことや著書を見くだしたような発言をするのを聞くたび、
自分が見下されたような気がして、少し、胸が痛む。