『マンスフィールド・パーク』読了

明け方4時、『マンスフィールド・パーク』読了。

マンスフィールド・パーク (ちくま文庫)

マンスフィールド・パーク (ちくま文庫)

大変、おもしろかった。
あとがきにもあるように、この小説の女主人公ファニーは、オースティンの小説には珍しく、
地味で真面目で道徳的、聖女のような女性として描かれている。
10歳のときに自分に優しくしてくれた従兄エドモンドにずっと思いを寄せ、
美しく成長して最後に彼の心を射止めて結婚する、というハッピーエンド。
そんな話がなぜこんなにおもしろいのか。文庫本733ページを一気に読ませてしまうのか。


わたしはこの小説を、ファニーの一途な恋の物語としてではなく、
ファニーの周囲の男たちの心変わりを描く物語として、楽しんだように思う。
背表紙に書かれたあらすじを読まなくても、
10歳の出会いの場面を読めばすぐに、ははん、この二人がさまざまな苦難を乗り越えて最後に結ばれるのね、とわかる。
ファニーは控えめながらもエドモンドへの恋心は一貫して変わらないので、
恋愛ドタバタ劇を楽しみたい読者としては、兄のような愛情を見せていたエドモンドが、どんなふうにファニーに恋心を抱くようになるのか、
ということに注目して読んでいくことになる。
エドモンドはやがて、魅力的なミス・クロフォードに恋をし、その悩みをファニーに相談するようになるのだが、
このあたりもおきまりのパターン。
さあ、いつ、どんなふうに、エドモンドは心変わりをするのかしらと待ち構えて読み進めるのだけれど、
これが、なかなかひっぱる。まだかな、まだかな、と思っているうちに、
ミス・クロフォードの兄のヘンリーという遊び人が、ファニーに本気で恋をして、プロポーズまでしてしまう。
途中、ほんの一瞬だけれど、おや、最後のハッピーエンドは、ファニーとヘンリーの結婚か? と思ってしまうくらい、
ヘンリーもがんばる。エドモンド同様、ヘンリーの心変わりもまた、この小説の見せ場だ。
婚約者のいる女性と恋のたわむれを楽しみ、ファニーのこともいたずら心で気を引こうとしていたくせに、
やがて本気で恋に落ち、すごくがんばっていたのに、最後にまた、ろくでもない遊びの恋で身を滅ぼす。
というわけで、この小説の特徴は、女主人公のファニーだけが完璧な女性として描かれ、
エドモンドもヘンリーも、程度の差こそあれ、恋愛についてはだめだめな男たちであり、
ミス・クロフォードもファニーの従姉たちも、それぞれに魅力的ではあるが人間的にはだめだめな女たちとして描かれている、ということだ。
そのほか、あきらかに美点がまったくないノリス夫人をはじめ、マンスフィールド・パークのファニー以外の住人たち、
近隣の人々、ファニーの実家の人たち、などなど、登場人物はことごとく、身勝手だったり無神経だったりと、きわめて人間らしい欠点をもっているわけだが、
こうした心変わりの描き方、人々の欠点の描き方が、オースティンはほんとうにうまいのだ。
いじわるで容赦ないのだけれど、どこかくすっと笑ってしまうようなユーモアがある。
この「くすっ」といういじわるポイントは、たぶん人によって多少違うだろうが、
わたしは結構ひっきりなしにこのいじわるポイントにぶつかって、にやにやしながら読みふけった。
こんなふうに無条件に読書を楽しめるというのは、翻訳のうまさもじつは一役買っているにちがいない。
これで、『高慢と偏見『エマ』マンスフィールド・パーク』と、オースティンの長編小説を3作、中野康司訳で読んだことになるが、
どれもでしゃばらない自然な訳で、わたしはとても好きだ。
残り3作も、タイミングを見て中野訳で読破してみようと思っている。


昨夜、NHKのETV特集で、「カズオ・イシグロをさがして」という番組をやっていた。
イギリス、長崎に取材し、ともさかりえ福岡伸一などが登場、もちろん、カズオ・イシグロ本人もインタビューにこたえるという、
かなり充実した番組だった。でも……。
テレビだから仕方がないのかもしれないけれど、掘り下げ方が甘い感じがした。
女優さんや生物学者、映画監督など、カズオ・イシグロのファンという人たちが次々登場するのだが、
意図的なのか、作家や文芸評論家、翻訳家といった人たちは一切出てこない。
読者目線、という方針なのかもしれないけど、やはり作品をもっとも深く読みこんだ人=翻訳者に、
話を聞かないというテはないのでは?と思ってしまった。
(もちろん、翻訳者が出演をいやがったのかもしれないけど…)
でも、さっき紀伊國屋書店の「デイリーベスト」を見たら、
1位が「わたしを離さないで」、2位が「日の名残り」だった。
やっぱり、テレビの影響力って絶大なのねー。


数日前から続いている「イギリス小説」ブームとあいまって、
私も今日、久我山エキナカ書店でイシグロの文庫本を2冊購入。
土屋政雄訳のものはいずれも単行本で読了しているので、
未読のものの中から、好きな訳者のものを選んだ。
早速、「イギリス小説祭り」ならぬ「イシグロ祭り」に突入してもよいのだが、
今日はエキナカ書店で、先日「王様のブランチ」で紹介されていた気軽に読めそうな本も購入してしまったので、
まずはそちらから読むことにしよう。


全然関係ないのだが、最近、わたしのよく知っている60歳間近の男性が、30代半ばの女性と結婚した。
彼はとても魅力的なので、うら若き女性に思いを寄せられたとしてもまあ驚かないのだが、
わたしはなんとなく、彼はもう結婚はしないだろうと思っていたので、ショックだった。
そしてそのことを、今日、別のよく知っている50代半ばの男性(こちらもかなり魅力的な方だ)に話したところ、
「やっぱり若い子はいいんだよー」とのたまわった。
彼によれば、10代はちょっと遠慮したいが、20代は全然オッケーだという。
どこがそんなにいいのですか、と鼻息荒くつめよったところ、
「フレッシュなんだよねー、いや、肉体的なことだけじゃなくてさ、精神的にも」とのことだった。
ふーん。
そんな、親子みたいに年の離れた人と話して、一緒に生活して、楽しいのかなー。
なんか、会話がかみあわないような気がするけど。
上記の60歳間近の男性も、奥さんの希望なのだろう、ハワイで挙式をするらしい。ひょえー、似合わないー。
そのうち子どもなんか生まれたりして、幼稚園の送り迎えとかしちゃうのか。あーあ。


……などとくだらないことを書いているうちに、眠くなってきた。
そうだよねー、わたしにだって、20代、30代があったのだよねえー(遠い目になって、フェイド・アウト……)