ケン・フォレット、カズオ・イシグロ、ドリス・レッシング

行ってきました、函館。
残念ながらお天気がいまいちだったのですが、
おいしいものをたくさん食べ、友人とはたっぷりと話し、
でも全体としてはかなりのんびりした旅行になりました。
おかげで今回の旅の友とした、
ケン・フォレット『大聖堂−果てしなき世界』は、分厚い文庫3巻本だったにもかかわらず、
しっかり読み終えました!!

大聖堂-果てしなき世界(上) (ソフトバンク文庫)

大聖堂-果てしなき世界(上) (ソフトバンク文庫)

大聖堂-果てしなき世界(中) (ソフトバンク文庫)

大聖堂-果てしなき世界(中) (ソフトバンク文庫)

大聖堂―果てしなき世界 (下) (ソフトバンク文庫)

大聖堂―果てしなき世界 (下) (ソフトバンク文庫)

で、感想。
旅の友としてはまずまず。
肩のこらない大歴史冒険ロマンス、というところかな。
でも、以前に読んだ『大聖堂』にくらべて、ずいぶんエンターテイメント色が強くなったような気がした。
どきどき、わくわくして、一気に読ませるという意味では、さすが、ケン・フォレット!なんだけど、
拷問や殺人、レイプなどのシーンがしょっちゅうでてくるし、数ページごとに濡れ場がでてきて、
ちょっと安っぽい。
あれ、『大聖堂』もこんなだったかな??と思ったけど、
考えてみると、前作を読んだのは、わたしはエンターテイメントの翻訳の勉強と仕事にどっぷりつかっていたころだから、
あまり気にならなかったのかもしれない。
「解説」にもあるように、女主人公のカリスが魅力的。男主人公のほうはいわゆるヒーロータイプではなく、
誘惑に負けたり、虚栄心があったりと、「等身大」の男として描かれている。
そのほか、老若男女さまざまな人が入り乱れ、恋愛や陰謀が繰り広げられ、ペストが町を襲い……
というわけで、うーん、ひとことで言うと、和洋中なんでもありの盛りだくさん、ホテルのランチビュッフェ1800円、
という感じの小説でありました。


ランチビュッフェでおなかいっぱいになったところへ、
翻訳関係の知人・友人から、カズオ・イシグロとドリス・レッシングの翻訳書が出た(出る?)という知らせが。
レッシングはまだ入手していないので、どんな本かわからないのだけれど、
カズオ・イシグロは、「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」という副題がついた短編集で、
訳者あとがきによれば、イシグロは「短篇を書くつもりで短篇を書いた」そうで、
完全な書き下ろしの連作短編集。
わたしは短編集ってあまり得意ではないんだけど、
これは読んでみようかなあと思う。
さっきのたとえを続けるなら、とれたての食材を使った、高級旅館の朝食のような味わいを期待しつつ……。

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語


レッシングの翻訳のことを知らせてくれた友人が、
メールで「國文學」の2008年5月号、「特集−翻訳を超えて」のことに触れていたので、
ああ、どんな内容だったかな、と思って引っ張り出した。
たしかに以前、読んだはずなのだが、今、あらためてゆったりした気分で読み返してみると、
ほおお、なかなかおもしろい。
とくに、その友人が感心していた、立教大学の舌津先生の記事が、抜群におもしろかった。
(前に読んだときは、ずいぶんおちゃらけた文章だなあと思って、あまり丁寧に読まなかったのだ。
 こういうのは、「おちゃらけた文章」ではなく、「軽妙な文章」というべきで、ちょっと反省。)
この記事のタイトルは、「誤訳の名作 アメリカ文学作品邦題再検証」で、
だれもが知っているアメリカ文学の名作や映画、音楽を扱い、
だれもが理解できるような、わかりやすい明快な文章で書いて、
それでいて、一般の人とは全然違う、さすがプロ、という深さを感じる記事だった。

國文學 2008年 05月号 [雑誌]

國文學 2008年 05月号 [雑誌]

それにしても、この号の編集後記を読んで、
「翻訳」や「外国文学」と、「国文学」との間には、
ずいぶん大きく分厚い壁があるんだなあ、と思った。
「……と同時に、翻訳とは想像以上に複雑で創造的な作業なのだと実感しました。」
「……考え方や生き方までもが反映され、はじめて「翻訳」たりえます。それは単なる言葉を超えた異文化との交流です。」
「……今後、国文学の研究をしていく際にも、きっと翻訳は大きなヒントを与えてくれるに違いありません。
 「国文学」にとって大きなテーマでもあるはずです。」
と、どれもあまりにもっともすぎて、当たり前すぎて、正直なところ、
「ええーっ、この雑誌の編集長さんがこの程度の認識なの??」と思ってしまった。
いや、もしかしたら編集長さんの問題じゃなくて、この雑誌の読者(国文学者)は、
翻訳などという中途半端なものをとりあげるなんてもってのほか! という感じだから、
あえてこんなふうに書いたのかもしれないな。
そういえば、日本文学の好きな外国文学者って多いけど、
外国文学の好きな国文学者って、どれくらいいるんだろう。
すぐれた国文学者の外国文学論って、読んでみたい気がする。


今日はこれからクミアイの仕事で神保町へ。
会社を休んでいると、1日があっという間にすぎちゃうんだよね……。
やろうと思ってたことの半分も終わってないのに。