「マイトレイ」/「軽蔑」読了ほか

先日、千歳烏山の書店でこの本を見かけた。
新刊を雑多に並べている棚の中にあったのだが、
ハウツー本やタレント本の中にあって、この本は光り輝いて見えた。
帰宅して、途中でやめていたモラヴィア「軽蔑」を読了。
(「マイトレイ」は数日前に読了)


読了してから日数がたってみると、「マイトレイ」は意外に印象に残っている。
舞姫」みたいな話だな、と思いながら読んだのだけれど、
主人公のマイトレイが、「舞姫」のエリスよりもはるかに存在感があり、魅力的。
帯にあるような「官能の物語」とはあまり思わなかったけれども、
古典的な青春小説で、若いときならではの浅はかさと激情がひしひしと伝わってきた。
ベストセラーになったというのがよくわかる。


「軽蔑」のほうは、登場人物が「マイトレイ」より少し上、
結婚2年目の夫婦の話だ。
「マイトレイ」と同じ、男性の1人称小説でありながら、
「軽蔑」のほうは、妻であるエミーリアにはまったく存在感がなく、魅力もない。
もちろん、著者はそのように書いているので、
この小説は壊れていく夫婦の物語ではなく、壊れていく男の物語で、
そういう意味では実はこちらのほうが、「舞姫」に近いのかもしれない。


あらためて考えてみると、
「マイトレイ」「軽蔑」とも、作品にぴったりあった、いいタイトルだ。
エリアーデのほうは、文字通り、読んでいる間も、読み終わってからも、
「マイトレイ、マイトレイ、マイトレイ……」という、語り手が呼びかける声が頭に残るような小説だし、
モラヴィアのほうは、夫婦間の不和やいざこざには、おびただしい数の原因・要因があると思うけれども、
その中でもっともやっかいで、もっともどうしようもない感情が「軽蔑」なのだろう、と考えさせられた。


さて、昨日の夜は、仕事でお世話になったデザイナーさんたちとの飲み会があった。
あまり詳しくは書けないけれども、
とても刺激を受けたし、もっともっと、この人たちと話をしてみたい、と思った。
本作りは、作家さんはもちろんのこと、デザイナーさんや画家さん、組版・印刷屋さんなど、
多くの人たちの手で成り立っている。
本作りをとおして、こういう魅力的な人たちと出会って、
いっしょに仕事ができるというのは、ほんとうに幸福なことだ。
帰り道、編集の仕事を選んでよかったな、としみじみ思ったのだった。