2冊読了

この間、2冊読了。といっても、1冊がとても重い内容だったので、次の1冊は軽いエッセイを選択。

バニヤンの木陰で

バニヤンの木陰で

かつて自分が訳した『エディスの真実』と、とても重なる部分が多い。ナチスによるユダヤ人虐殺、クメール・ルージュによるカンボジア人虐殺。同じ人間どうしで、それも中世とかならまだしも、100年も経たない過去に、こんなにも悲惨で理不尽なできごとが起きたということが信じられない。ともにその最悪の状況の中を奇跡的に生きのびた著者が、少女だった当時のことを振り返って書き記している。「エディスの真実」は手記だったけれど、こちらは「小説」の形をとっている。


この2冊がすばらしいのは、このような悲惨な状況を描いているのに、情景描写が美しく、家族の態度や言葉が時に気高く、人間の弱さや醜さ以上に、人間の強さや生きる意味、言葉や想像力の力がみごとに描き出されている、ということだ。正直に言えば、「小説」であるこの本は、「できすぎ」「立派すぎ」と思ってしまうくらい、苦境に立ち向かう主人公の姿が美しく描かれている(もちろん、嫉妬やあきらめなどマイナスの部分も描かれているのだけれど)。迫害者の描き方にも、著者の体験を考えたら信じられないくらい、優しさと寛容さがあらわれていて、一方的に弾劾したり、悪人扱いすることはない。


ただ、読み進めていてあまりにつらいので、早く主人公が救われる場面を読みたい、と、後半はものすごい駆け足になってしまった。歴史の授業や新聞などで「知識」として知っていることの姿かたちみたいなものを、自分にかかわりのある問題として受け止めるのに、「小説」という媒体は大きな力を発揮する。


おまけの1冊はこれ。

25年前にはじめてイギリスに行ったとき、どうしても訪れたかったのがこのハムステッドの町。キーツ・ハウスやキーツの墓をたずねたときの興奮を思い出した。というか、あれからもう四半世紀も経ってしまったのか、といことに驚愕&衝撃を受けている。ふと思いついて、グーグル・アースで当時通っていた英語学校やホームステイ先の家などを検索してみた。ステニング、という町である。学校はもうないし、ハイストリートもずいぶん様変わりしていたけれど、いかにもイギリスの郊外、って感じの風情は変わっていなかった。ロンドンから1時間以上かかる不便なところだし、ホストファミリーが今もそこに住んでいるのかわからないけれど、でももう一度この町をたずねてみたい。


昨日は法事。今日はお弁当をつくって善福寺公園へ。帰りに音羽館へ寄って、エリアーデ『妖精たちの夜』上下を4000円で購入した。前にもブログで書いたことのある外国文学好きの上司が、「エリアーデを読みなさい」と言っていたのを思い出したので。エリアーデなんて1冊も読んでない、と思っていたのだけれど、考えてみたら河出の池澤全集で『マイトレイ』を読んで、たいへん感銘を受けたのだった。最近の海外文学は短篇集が話題になることが多いように思うけれど、わたしはやっぱりがつんと長篇が好きなんだよなあ。