夏の京都で『アブサロム!アブサロム!』を読み始める

この夏休み唯一の「仕事」で、ある対談収録のために京都へ。
大好きな人たちとの仕事で、楽しい時間であることは間違いないのだけれど、
それでもやっぱり、一応「仕事」なので、
「おつかれさまでしたあ!」と解散した直後、思っていたより疲れていることに気づく。


ホテルの近くのカフェで夕食。味はどうということはなかったけれど、
お店の人たちの対応が丁寧で感じがよかった。
ずるずると体をひきずるようにしてホテルの部屋へ。
疲れて何もする気にならなかったけれど、がんばってホテル内の庭園風呂へ。
このお風呂がめあてでこのホテルを選んだのだから、無理してでも行かなくちゃ。
と、これが大正解。
そんなに広くはないけれど、小さな鹿おどしのある庭に面したお風呂にゆったりつかる。
だいぶ元気になったところで、さあ、今夜のお楽しみ、『アブサロム!アブサロム!』を開いた。
書き出しから、圧倒的な迫力でせまってくる。さすがだ。


   長い、静かな、暑い、ものうい、死んだような九月の午後の、二時を少しまわってからほとんど日没まで、
   彼らは、ミス・コールドフィールドがオフィスと呼んでいる部屋に坐っていた。(5ページ)


くわあ。すごいな。ここから3ページくらい、こういう感じの情景描写が続くのだけれど、
息の長い、ぐちゃぐちゃした、行きつ戻りつするような文章を、
ちょっとだけ気を使いながら(すらすら読める、っていうようなものじゃないので)読み進めていくうちに、
この作品の世界にどんどん入り込んでいって、クウェンティン・コンプソン(『響きと怒り』のあのクウェンティンだ)といっしょに、
そこに坐っているような気になってくる。
夢中になって読んでい……たはずなのに、
気づくと開いた本の上にうつぶせになって眠ってしまっていた。


翌朝、定期観光バスに乗る。
「京都異界めぐり」という、ちょっと変わったコースだったので、人は少ないかなと思っていたら、大間違い。
ほぼ満席だった。
一人参加で不安だったけれど、バスで隣の席になった年配の男性が日傘を貸してくれようとしたり、
友達と参加しているらしい中年の女性たちが昼食時に声をかけてくれたりと、
観光そのものはもちろん楽しかったけれど、それ以外のことでもふんわりいい気分になったバス観光だった。


京都駅でお弁当を買って新幹線に乗り込み、
どかんと座るなり鞄から分厚い本を取り出す。
おもしろい。抜群におもしろい。
わたしは長いこと、アメリカ文学は苦手だと思っていた。
ヘミングウェイが苦手なのと、サリンジャーと不幸な出会い方をしたのが、いけなかったのだと思う。
アメリカ文学を誤解していたのかもしれない。
うーん、これから先が楽しみだ。
「夏のフォークナー祭り、開幕!!」