古典新訳文庫『ヴェニスの商人』

ヴェニスの商人 (光文社古典新訳文庫)

ヴェニスの商人 (光文社古典新訳文庫)

読了。
古典新訳文庫、安西徹雄シェイクスピアの3作目は『ヴェニスの商人』。
よく知っているストーリーなので、「ああ、どうなるんだろう」というドキドキ感はなかったものの、
シャイロックの嘆き節や、「箱選び」の際のポーシャの辛口批評ぶりなど、
かつては読み飛ばしていた部分がやたらとおもしろく、意外な発見が多くあった。


シャイロックの名ぜりふ、「……ユダヤ人には、目がないのか。ユダヤ人には、手がないのか。……」(100ページ)
の部分は、以前、安西さんが講演で、朗読するのを聞いたことがある。
すごい迫力だった。
今回、安西訳で読み返してみると、
これまでただの悪役としか思っていなかったシャイロックが、妙に人間味を帯びてきて、
娘がダイヤを盗んで駆け落ちをする場面では、思わずシャイロックの肩を持ってしまうくらい。
逆に、以前読んだときには、「恋人の親友の窮地を救う才色兼備の女性」と思っていたポーシャが、
案外、辛辣で品がなく、現実的な女性だということがわかったり、
バサーニオは愚かで頼りないし、アントーニオの友情というのもなんだかよくわからないし、
というぐあいに、登場人物に対する感じ方が、ずいぶん変化したように思う。
これは翻訳によるものか、あるいはこちらが年をとったということなのか。
いずれにしても、前2作『リア王』『ジュリアス・シーザー』同様、脚本の苦手な私でも、
十分におもしろく、「ことば」の応酬そのものを楽しみながら読めた。
さて、次なる安西訳シェイクスピアは何かな。
唯一、原書を読んだことがある『真夏の夜の夢』あたりを、ぜひ読んでみたいなあ。
(大学3年のときの「シェイクスピア演習」という授業で読んだ。
 成績がどうだったかはまったく覚えていないけれど、
 先生が朗読してくれる台詞がやたらかっこよくて、あんなふうに読めたらいいなあと憧れたものだった……)


ここのところ(おそらく『水滸伝』読了後)、どうも読書が不調。
同居人によれば、「大長篇小説を読みきったあとにはよくある症状」なのだそうだが、
何を読んでも、作品世界に入っていくまでにどうにも時間がかかり、なかなか集中しないのだ。
先週末になんとかこの『ヴェニスの商人』を読み終えて、
武器よさらば上・下』を携えて西伊豆旅行に向かったのだけれど、
結局、上巻すら読み終えることができずに東京に戻ってきた。
どうもヘミングウェイは苦手だ。
翻訳の先生たちや仲間の中には、ヘミングウェイ好きが多いのだけれど、わたしはどうも……。
以前、「GQ JAPAN」という雑誌で、ノーマン・ルイスという作家が書いた「キューバヘミングウェイ」というエッセイを翻訳したことがある。
これは晩年のヘミングウェイを批判的に描いたもので、
ヘミングウェイのファンが読んだら、かなりがっかりするか怒り出すか、どちらかだろう。
でもわたしは、何のためらいも痛みもなく、どちらかというと共感しつつ翻訳したという記憶がある。
今、当時の雑誌をひっぱりだしてきて読みかえしてみたら、まあ、翻訳の巧拙はともかく、
ヘミングウェイがなかなかいやーな感じの老人として描かれていて、おもしろかった。
わたしのヘミングウェイ嫌いは、結構、筋金入りなのかも。


というわけで、ヘミングウェイはちょっとお休みして、新訳の「ロビンソン・クルーソー」でも読むかな。