著者と読者と

編集の職場でよく言われることのひとつに、
「著者のほうを向いて仕事をするな、読者を意識せよ」
ということがある。これはもちろん、著者を大切にしなくてもよい、という話ではなくて、
あくまでバランスの問題だ。
こういうことがさかんに言われるのにはやはり理由があって、
目の前の「著者」と、目に見えぬ不特定多数の「読者」の存在感というのは、
放っておけばどうしても、「著者」に傾いていきがちだからなのではないか。
そしてこういうふうに「著者」に傾いていくのは、
もちろん著者が「権威」だからなどという理由ではなく、
多くの「著者」は、自分が書こうとしている原稿に対して、
これから書物になろうとしているゲラに対して、
ものすごく真剣で、誠実で、気圧されてしまうくらいの迫力を持っているからだ。


先日、原稿遅れの常連(だけど、原稿の質はピカ1!)の著者に催促メールを送ったら返事がきて、
締め切りを延ばしてほしいというのでめいっぱい延ばしたら、
御礼のメールがきた。
この御礼のメールには、頼んでいる原稿とは直接は関係ないのだけれど、
その原稿でとりあげている作家の関連書をどんなふうに読んでいるか、という、
感想のような、言い訳のような(いや、言い訳なのでしょう)文章が書いてあって、
なんだかとてもうれしかった。
サラリーマン編集者としてはここでうれしがってなんかいないで、
著者の尻をたたいて原稿を書かせなくちゃいけないんだろうけど、
私はどうやら、こういう著者とあれこれやりとりをすることがたまらなく好きらしくて、
それはつまり、最初に書いた「著者・読者」への目配りのバランスが、(会社員としては)著しく悪い、ということになる。
会社に叱られない程度に、気をつけないといけない。


今日、はじめて北沢書店の1Fにできた児童書専門店をのぞいた。
学生時代、北沢書店は憧れの店で、店員さんとかもみんな賢そうにみえて、
「英語で話しかけられたらどうしよう」と(そんなはずないのに!)どきどきしたりしたものだった。
その後、神保町の出版社で仕事をしていた時期などは、わりあい頻繁にのぞくようになって、
それなりに愛着が出てきていた。
そんな折、北沢は2Fだけになって、1Fには別の書店が入ることになった、という噂を聞いた。
ショックだった。
というわけで、北沢の1Fに入る書店には、当初から意味なく敵意を抱いていた。


ところが!! 労働組合の用事で岩波書店に行き、その帰りにちょこっとだけ時間があったので、
北沢の1Fの児童書専門店「ブックハウス神保町」に入ってみたところ!!
なんとも素敵なお店だった。
児童書専門店にありがちなごてごてした感じはなく、北沢ビルのシックなイメージを、
しっかり踏襲している雰囲気。
本の並べ方にも(じっくり見たわけではないけれど)主張というか、売り手の思いがこめられているような感じで、
なかなか好感がもてた。
もう少しちゃんと見たかったのだけれど、今日のところは時間がなくて退散。
今度はたっぷりと時間をとって、2Fの北沢にも久しぶりに寄ってみよう。
ネット書店での買い物も楽しいし便利だけれど、
工夫を凝らしているあちこちの本屋さんを歩くのは、なんとも言えず楽しい。