嫌われ松子の一生

嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)

嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)


この小説はだいぶ前に読んだのだけれど、
先日、中島監督の映画のほうを観たので、
あわせて感想を。


小説も映画も、かなりいい。
好きな小説の映画化作品って、がっかりする率が7割くらいだから、
正直言ってあまり期待していなかったのだけれども、
この映画には、ほんとうに脱帽!でした。
こんなにつらく切ないストーリーを、こんなに明るくポップに描くなんて、
天才の仕事、としか思えない。


そもそもこの小説を読んでみようと思ったのは、
だれかが書評のあらすじ紹介の中で、「元中学教師の転落人生」と書いていて、
「おお、私が読まずしてだれが読む」と思ったからなんだけれど、
読み進めながら(映画を観ているときにも)松子があまりに浅はかなだめ女なので、
ああ、私もここまで愚かじゃないな、とちょっとほっとしたりなんかして。


でもかなり共感できるというか、
松子の愚かな判断や行動を、かばいたい気持ちこそあれ、責める気にはまったくなれなかった。
松子のようなところが、私にはぜったいある。かなりある。
「女ってこういうところある」みたいなことは、(ちょっと言いたい気もするけど)言わない。


自分はよかれと思ってやってることが裏目に出るたび、松子は、
「なんで?」と問う。
失敗して「なんで?」。ふられて「なんで?」。
でも、全然懲りない。学習しない。年をとっても、何度失敗を繰り返しても、その愚かさは変わらない。
……いっしょに映画を観にいった同居人に、あなたもよく「なんで?」って言ってるよ、と指摘された。
やっぱり。


20代の女性とおぼしき方の映画評で、
松子のような自己中女には絶対共感できない、
自分からだめ男を好きになって不幸を招いているのだから自業自得だ、
というような内容のものを読んだ。
自信と希望があるのだなあとまぶしいような感じがした。


この小説を読んだり映画を観たりした女性の中で、
嫌われ松子は、私だ」という感想をもった人は、
どれくらいいるのでしょうね?
私のよみでは、かなりいるのではないか、と。
(映画では中谷美紀さんが演じていたので、
こんな感想を持ったらおこがましい感じがしますけど。)


目黒シネマで映画を観て、目黒川沿いをずうっと歩き、
温泉に入って、古本屋さんに寄って、
夕日の差し込む井の頭線に揺られ、帰ってきた。
いつもいっしょにいる人がいて、
その人と過ごすありふれた毎日のありがたさをじんわりと感じて、
ありきたりといえばありきたりの幸福感に浸っていたとき、
思わぬ悲報を耳にした。


突然倒れて意識不明に陥ったその人は、
酔っ払って眠っているようだった、そうだ。
今、うちの同居人はぐーすかいびきをかいて眠っている。
目覚めていることと眠っていることの距離、
生きていることと死んでいることとの距離は、
思っているほど遠くはないのかもしれない。


なんだか不安になったから、ちょっと起こしてみようかな。