村上春樹論

小森陽一村上春樹論 『海辺のカフカ』を精読する」を読了。

村上春樹論 『海辺のカフカ』を精読する (平凡社新書)

村上春樹論 『海辺のカフカ』を精読する (平凡社新書)


海辺のカフカ』を読み終えたときの、
「非常によくできた小説で面白いのだけれど、なんとなく不愉快」
という感覚を、論理的に説明してくれた本。
先行テクストとの比較もわかりやすくて、新書だけれどなかなかの充実感。


村上春樹は、初期の作品はほとんど読んでいるのだけれど、最近はまったく読まずにいた。
仕事の関係でどうしても必要があって、『海辺のカフカ』を文庫で読んだ。
読ませる展開はほんとうにさすがで、今活躍している日本の作家の中で、
いわゆる「文学」と呼べる作品を書いて多くの読者を獲得できる作家として、
ものすごく稀有な存在なのかもしれない、と思った。


先日東大で行われた村上春樹の国際シンポジウムに出席して、
村上春樹の海外での受容の様子もよくわかったし、
カーヴァーやオブライエンの村上春樹の翻訳はほんとうにすばらしくて、
もちろんサリンジャーの「キャッチャー……」もよかったし、
なんていうか、村上春樹がいまの日本を代表する大作家であるということに、
何の異議もないのだけれど……


……何にひっかかっているのか、よくわからなかった。
ただ、田村カフカくんがどうしても好きになれなかった。
村上春樹の描く主人公たち(男性)は、なんとなくいやなんだけど、
一方で、どうもいやだいやだと思いながら、こういう男にひかれてしまうことがある、
という、まあ、個人的な問題もあるような気がする。


小森陽一さんのこの本は、この「なんとなく」「個人的な問題」というあたりを、
それはこういうことなんですよ、って教えてくれる。
ほんとうにそうなのかなあ、なんだかこじつけのようにも思えるけど、
でもかなり頭の中がすっきりしたことは間違いない。


いずれにしても、何を読んでも、だれと話しても、とりあえず、
「なるほど」「そうだなあ」と思ってしまうのが、
わたしの浅はかなところ。
こんなことで、今仕事で任されそうになっている大きなプロジェクトなんて、
仕切ることができるのかしら。