働き続けているということ

先日、高校時代の親友に数年ぶりに会った。中学校3年の春、軟式テニスの湘南大会の準決勝で初めて会って、同じ高校に進学し、同じポジションで3年間ライバルとして過ごした。テニスの腕も学業成績も同じくらいだったけど、当時の彼女は石野真子にちょっと似てかわいらしく、結構男子から人気があった。高校1年のときからつきあっていた同級生と大学時代、就職してからとずっと交際を続け、結婚して4児の母になった。子育て、親の介護、と大変そうではあったけれど、地に足のついた生き方は高校時代から変わらず、幸せそうだった。


わたしたちが大学4年で就職活動をした年は、1986年。バブル花盛りで、雑誌「JJ」などでもとりあげられる私立のお嬢さん大学に通っていたわたしは、財閥系の大手商社に縁故で入社を決めて、最後の大学生活をエンジョイしていた。数年つとめたら結婚して子育てをして、良妻賢母になるんだー、などと思っていた。一方、彼女も同じような雰囲気の私立大学に通っていたのだけれど、わたしなどよりはるかにまじめに「一生続けられる仕事」をさがして、教員採用試験を受けたり、マスコミ関連を志望して、アナウンサー講習会などに通っていた。


あれから25年。プライバシーに関わるので詳しくは書かないけれど、彼女もわたしも、いろんなことがあった。気づけば専業主婦志望だったわたしが、もう20年以上、働き続けている。ものすごーくお金がない時期もあったけど、一応、親や恋人や同居人に頼ることはなく、自分の食い扶持は自分で稼いで生活している。良妻賢母にはなれなかったけど、高校生の頃から好きだった本にかかわる仕事ができて、ありがたいことだと思う。


高校生の頃、自分たちがこんなふうになるなんて、想像できなかった。世の中も変わったし、とくに女性の生き方に対する価値観は、大きく変動した時代だったと思う。でもやっぱり、なるようになる、おさまるところにおさまるもんなんだね。親友は、そう言って笑った。ほんとうにそうだ。彼女は最近、自宅で小学生に勉強を教えているらしい。「まりみたいにバリバリ働いている人がきいたら笑っちゃうかもしれないけど、わたし、天職だと思ってる」と言った。いいや、笑ったりしないよ。いいね、すごくいい。4人の子どもを育てたからこそ、見えてきたものがあるような気もするんだよね、とも言っていた。かなわないな、と思う。最近はやりのワークシェアリングとかそんな大げさなものじゃなくて、いろんな働き方があっていいよな、と思った。


今日たまたまウェブページで、フリーランスでやっていける人の条件、みたいな記事を読んだ。たしかに、フリーランスとかノマドワーカーとか、なんか自由でおしゃれな感じでちょっと憧れるけど、現実には収入は不安定だし、不本意な仕事を受けざるを得ないこともあるし、暇なときは暇なくせに仕事の依頼が集中して長時間死ぬほど働かなくちゃいけなくなったり、と、大変なことも多い。自由な働き方とひきかえに、いろんな重荷を背負うことになるわけだけだ。一方、会社勤めってのは、フリーだったときには考えもつかなかったような気苦労が多く、我慢したり諦めたりすることだらけで、「自分の考え」とか「理想」「志」みたいなものは、とりあえず横において、まずは会社の要求にこたえる人材になる、ってのが大事。そういう人生ってちょっといらっとするけど、でも毎日きちんと通っていれば、毎月決まった日にお給料が振り込まれ、バス代や定期代も支払われ、健康診断まで無料で受けさせてもらえる。フリーでは受けられないような大きな仕事を手がけることができたり、雲の上の人のような著者やデザイナーといっしょに仕事をする機会にも恵まれたりする。フリーランスとサラリーマン、両方やってみて思うのは、さっきと同じ、どっちもどっち、なるようになる、おさまるところにおさまる、ってことだ。


10年前にいまの会社に入社せず、フリーランスのままだったとしても、まあ、なんとかやってたんじゃないかな、と思う。翻訳と編集の仕事を少しずつやって、収入はいまの半分くらいかもしれないけど、たいへん、たいへん、とか言いながら、自由な生活を満喫していたんじゃないかな。夕日のさすトレーニングルームで親友と将来の夢を語った高校時代から、はや30年。わたしは良妻賢母にはならず、熱血教師にもならず、フリーランサーにもならず、結局サラリーマン編集者になった。まあ、これで落ち着くという保証はないわけなので、ここでちゃんちゃんとまとめるわけにはいかないのだが。(これから大恋愛をして、何度目かの家出をするという可能性だって、ゼロではないのだ。)


今日は午前中にテニスの振替レッスンを受けてきた。振替なので初めてのコーチだったんだけど、逆クロスのフォアハンドを何度も名指しで褒められちまった。へへへ。やっぱりテニスはいいなあ。帰宅してシャワーをあびて、昼食をとってから、実家(といっても同じマンションだけど)に行って親孝行。自宅に帰って大地宅配の注文をして買い物行って夕食つくって、とあわただしく過ごすうち、あっという間に夜になり、1時間かけてつくった夕食も15分ほどでおなかにおさまり、同居人とぼんやりテレビを観て、ああ、気づいたらまた、本を読まないままに一日が終わろうとしている。ま、そういう時期もあるよね。