至上命令

夏休み気分の8月も今日で終わり。つくった本の結果がちらほらと出始め、著者に頼んでいた原稿も「一気に」とはいかないまでも、まあまあのペースで届きはじめて、そろそろ繁忙期への心の準備をしなくては、ってな時期になった。8月の最終週には、何十年ぶりかで高校の軟式テニス部のOB合宿に参加、まる1日バリバリとテニスをして、とても楽しかった。が。


先生が来た。来るのかな、どうなのかな、と思ってはいたけど、現実に先生の姿を見たら、ひゃあ、先生が来た。と、それ以上のことは何も考えられなくなった。テニスコートで先生に会うのは、何年ぶりなのかもう思い出せない。現役時代はもちろんだけれど、二十代の後半まで母校のテニス部のコーチをしていた頃も、わりと頻繁に先生に会っていた。その後、わたしは母校のテニス部から離れ、東京に住まいをうつし、時々思い出したように、軟式や硬式のテニススクールやサークルに入ってテニスをしていたし、総会やお祝いの席などで先生に会うことはあったけれども、テニスをする場で先生に会う機会はずっとなかった。もしかしたら、20年ぶりくらいだったと思う。


うわあ、先生が来た、先生が来た、どうしよう、と思っていたら、先生は到着するなり、その場にいた誰よりも最初に、わたしに向かって、「おお、◯◯、だいぶしぼらないとな!」と言ったのだった。はい、がんばります。そうなのだ、わたしは先生をはじめわたしの現役時代を知っている先輩方からするとびっくりするほど、横幅が増えている。一緒に行った一つ下の後輩や、高校時代にペアを組んだ先輩方は、皆、当時に近い体型を保っているというのに、これは、まずい。


練習がはじまった。OBの合宿とはいえ、練習は結構本格的。先生の後について、ボレー練習やスマッシュ練習をする。緊張しているような、めちゃくちゃ嬉しいような、なぜだか少し悲しいような、複雑な気持ち。でも練習をしているうちに、だんだん無心になっていって、とにかくいいプレーをしたい、ということしか考えなくなる。サーブレシーブ、ゲーム練習と進むにつれて、気持ちはどんどん高校時代に戻っていって、ミスをすれば悔しいし、試合に入ればどんな手を使ってでも勝ちたい。それにつけても、この重い体、なんとかならんのかい! と本気で痩せなくちゃ、と思った。体がもう少し軽くなれば、もっと早く走れるし、反応も早くなる、体も切れもよくなる。なんということか、この年になってまだ、うまくなりたいと思っているのだ!!


先生にはこの日一日で合計3回、「しぼらないとな」という内容のことを言われた。夜、OBの先輩からも、あと10キロ、いや、15キロ痩せろ、と(おそらく愛情をこめて)言われた。こうなったら、もう、ダイエットに励むしかない。同居人の冷ややかな視線にたえながらはじめた(何度目かの)ダイエットだけれど、今度こそ、来年、先生に「お、」と言わせるために、目に見える成果を出すのだ。しかも、ただ食事を我慢して落とすんじゃなくて、体力と筋力をつけて、硬式だけどテニスの腕を磨いて、今年よりずっと、軽やかにプレーをして見せるのだ。そしてそのときには、今年の合宿には残念ながら来ていなかった、わたしの元ペアの先輩方にお会いして、おお、マリはやっぱりさすがだ、いい選手だ、とうならせてやるのだ。


というわけで、熱血ダイエット続行中。エアロバイクに筋トレ、ボクササイズ、テニス、と、毎日欠かさず体を動かし、「大地を守る会」で購入した新鮮なお野菜中心の食事をし、と、目下ダイエットのことで頭がいっぱい。「最近、本を読んでる姿を見かけないねえ」と、今度は別の意味で冷ややかな視線を同居人から浴びせられてはいるが、めげずに至上命令を遵守すべく、今日もせっせとジムに足を運ぶのだった。(で、少しは痩せたかどうか、って? ふふふ。いまのところは、まあまあ順調。何しろ、減らしがいのある体だから。)