福井駅の構内放送を聞きながら

新幹線と特急を使って、夜7時頃に福井に着いた。駅前のホテルに泊まっているが、この時間になっても何やらアナウンスが聞こえてくる。なんだろ〜と思って耳をすませてみてわかったのは、電車の構内放送だということ。駅前といってもそれなりに離れているような気がするのだけれど、結構古いホテルっぽいので、あまり防音がよくないのかも。そういえば、さっきから隣の部屋でお風呂のお湯をいれているっぽい音が聞こえている。おっと、鼻をかむ音まで。こりゃかなわんな〜。テレビをつけることにする。


新幹線の中と特急の中、夕食後の喫茶店と、読書タイムを満喫した。スマホiPadをみだすときりがないのでそれを禁じたのが功を奏して、かなり読書に集中でき、読みかけの本とあわせ、2冊読了した。
まずは読みかけだった、こちら。

わたしがシャーロック・ホームズに出会ったのは、たぶん小学生の頃。最初は子ども向けのもので読んだはずだけど、わりとませたガキだったので、すぐに大人向けの文庫に向かった。謎解きに興味があったというより、ヴィクトリア朝イギリスという舞台設定や、登場人物たちのしゃれた会話が、学校で薦められるような本とは全然違った魅力があってひかれたんだと思う。いま自宅にいないので確認できないけれど、たぶん新潮文庫で何冊か、短編と長編を読んだ。その程度の愛読者でも、本書は十分に楽しんで読める。出てくる固有名詞がわからなくても、疎外感を感じることなく読めるように工夫されているのだろう。これは、翻訳者としての著者の仕事が、「ホームズ3分の1、児童書3分の1、その他3分の1」というあたりに秘密があるのかもしれない。


もう十年以上前になるが、母とイギリスに行ったことがある。初日ロンドンに宿泊したのだが、母がガイドブックで見たパブ「シャーロック・ホームズ」に行ってみたいと言うので、勇気を出していってみた。2Fのシャーロック・ホームズの部屋を見て、母は大はしゃぎ。いまでも「あのとき楽しかったわねー、シャーロック・ホームズ行ったわねー」と言っている。たとえば本書は、うちの母が読んでもおもしろく読めるだろう。先ほど書いたように、著者の日暮さんの筆力はもちろんだけれど、やっぱりホームズそのもの、イギリスの文化や風物そのものの魅力によるところも大きいんだろうなあ、と思う。


そんなことを思いながら、新幹線の中で次の本に突入。今度はイギリスの現代小説(ただし舞台はアメリカ、でも、きわめてイギリス的な小説だ)。新幹線、特急と読み続け、夢中になるあまり京都、福井で降り忘れるんじゃないかと思ったほど。

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

ご遺体 (光文社古典新訳文庫)

非常に好みだ。ストーリーも、細部の描写も、翻訳もいい。ウォーといえば吉田健一訳の『ブライズヘッドふたたび』が、海外小説オールタイムベスト10に入るんじゃないかってくらい好きなんだけど、なんとなくほかの作品はブラックで難しいという印象があって手に取らずにいた。でも、大好きな古典新訳文庫に入ったうえに、ウォーで卒業論文を書いたという同居人から「この本は絶対おもしろい」と言われて読んでみたのだった。


詳しい感想を書きたいんだけど、明日からの営業にそなえていろいろ準備をしなくちゃなので、今日はここまで。明日、金沢へ移動して、元気が残っていたら感想を書く。明日の携帯本は……グレアム・グリーンの短編集にしようかな。


と、ここまで書いてアップしてから、ほかの方のブログを見ていて、吉祥寺駅のホームのキオスクで、「BRUTUS」の「古本屋好き。」という特集の最新号を買ったことを思い出した。わたしはいわゆる古本屋好きではないけれど、この特集にあふれている、本が好き、本に囲まれて生きていたい、って感じは心地いい。「古本屋好き。」→『シャーロッキアン翻訳家最初の挨拶』→『ご遺体』という流れの読書時間は、なかなかのハイクオリティーだった。これを力に明日からの営業活動がんばろう。