読書不調

暑さのせいか、忙しさのせいか、近年まれにみるほど読書が進まない。
これは「ブリキの太鼓」の呪いだろうか、と思い、
軽い文庫本でも……と思うのだけれど、本屋さんに行くと仕事用の本が気になり、
つい、短篇集や新書をさがしてしまう。
で、自宅に帰ってリビングのテーブルの上に鎮座している「ブリキの太鼓」を開く。
が、五行で眠くなる。この繰り返しだ。


などと書くと、全体的に不調のようだけれど、実はそういうわけでもない。
仕事のほうは、前回書いたように、傷つくことももちろんあるのだけれど、
嬉しいこともたくさんある。
つい先日、ものすごく幸せな出会いがあって、ちょっと舞い上がっている。
仕事のことなのであまり詳しく書けなくて残念だけれど、
しばらくは軽い興奮状態の中で仕事をすることになりそうだ、とだけ記しておこう。


さて、世の中には時々、同業者カップル、というのがいる。
親たちの世代は、働き続ける女性が少なかったから、あまり多くはないかもしれないが、
最近はまわりを見渡すと、かなりの数の同業者カップルにお目にかかる。
妹たち夫婦もそうだし(家庭裁判所調査官カップル、だ)、身近には、
大学の先生カップル、編集者カップル、デザイナーカップル、などがいる。
うちも編集者同士なので、家ではしょっちゅう、仕事の話をしている。
同じような本を読むし、同じような情報に興味がある。
会社が別なので一緒に仕事をするということはないが、
手がけている仕事の内容についてはよく話をするし、意見を聞くこともある。
そういうのが普通なんだろうと思っていたのだが、
実はそうでもないということを最近知った。
同業者同士だと喧嘩になるので、家では仕事の話は一切しない、というパターン。
決して仲が悪いわけではなく、家事や育児のこと、趣味の話などで十分に会話を楽しめるので、
別にわざわざ仕事という微妙な領域で会話をする必要はない、という。
なるほど、と思った。
たしかに、仕事面での実力が同じくらいのカップルだと、
プライドを傷つけたり、嫉妬をしたりして、喧嘩になったりするのかもしれない。
でも、先日お会いした某同業者カップルは、驚くべきことに、
かなりの部分を、完全な共同作業で仕事をする、と話していた。
いっしょにパソコンの画面をのぞきこみ、この部分を夫が、この部分を妻が、
というような形で作業をすることもあるという。
おお、すばらしい。
喧嘩にならないのですか、とたずねたら、そりゃ時々はなりますよ、と笑っていた。
けれど、きっとそれが大きな傷にはならないのだろう。
どちらがいいとかそういうことではなく、いろんなかたちがあるんだなあ、と思った、ということだ。


そういえば、うちは本の好みだけでなく、映画の好みも似ている。
というか、はっきりとわたしが、同居人の影響を受けているのだ。影響されやすいわたし……。
で、数年前に目覚めてしまったのが、やくざ映画
仁義なき戦い」を観てから、すっかりやくざ映画ファンとなり、
今日もレンタルビデオで、深作監督のやくざ映画仁義の墓場」なんてやつを、朝っぱらから観てしまった。
中島哲也監督が好きなのも同居人だし、考えてみれば本も映画も、彼がわたしの先生みたいだ。
ちょっとだけ悔しいような気もするが、まあ、いいか。
パフューム(?)とか、わたしは全然興味ないし。


このように書くと、わたしは同業者好きのように見えるかもしれないが、そうでもない。
仕事柄、高校や大学の先生、作家、デザイナー、写真家、画家など、さまざまな職業の人たちにお会いする。
これがもう、たまらなく楽しい。
つい先日も仕事でご一緒した写真家の方と食事をする機会があったのだが、
この方がほんとうに魅力的な方で、聞きたいことが山ほどあり、
時間がどれだけあっても足りない、という感じだった。
以前このブログで少し書いた、翻訳もの好きの高校の先生とはメールのやりとりをするようになったのだが、
いただいたメールに向かって、「そうそう」「えー、そうですか?」などと話しかけながら読むくらい、
もっともっと、お話をしたい、と思う。
だから、前回書いたように、仕事上でがっかりしたり、いらっとしたりということも、もちろんあるのだけれど、
その何倍も、こういう幸福な出会いがあるわけだから、
まあ、全体としては悪くない、といったところだ。
で、いまふと思ったのだけれど、ネット上での出会いも、同じような感じだな。
不用意な文章を書いてブログが軽く炎上し、つらい思いをしたこともあったけど、
それより、会ったこともないネット仲間(と勝手にこちらが思いこんでいる)の文章や書き込みにはげまされることのほうが、ずっと多いもの。

久しぶりに会議も出張もない週末。
この先一ヶ月ほどは、土日祭日びっしりと予定が入っていて、ゆっくり出かける暇などなさそう。
なので、明日は早起きをして、箱根の日帰り温泉に行こうかと思っている。
ブリキの太鼓」を持って……いこうかなあ……。