女には七人の敵がいる?

先週、祖母の四十九日で護国寺へ行った。
旭川に引っ越した兄はさすがに上京できなかったが、それ以外のいとこたちが全員集合し、
久しぶりにおしゃべりを楽しんだ。
女性最年長の従姉は、公認会計士の資格を持った弁護士。
彼女にそっくりな二人の女の子の母親でもある。
死んだ妹と同い年の従妹は、海外生活の長い専業主婦。
英語力をいかしたボランティアもしながらジャニーズ系の息子二人の子育てに全力投球し、
みごと有名私立小学校に合格させた。


弁護士の従姉に、「子育てと仕事の両立、大変じゃない?」
とふったところ、従姉はにやりと笑って、
「うん。専業主婦のAちゃんや、子どものいないワーキングウーマンのMちゃん(わたしのこと)には、
ちょっと想像できないような苦労があるよ」と言った。そして続けて、
「この本ね、びっくりするほど自分と境遇が似てて。笑える話なんだけど、読んでて涙が出てきて……」
と紹介してくれたのが、加納朋子『七人の敵がいる』だ。

七人の敵がいる

七人の敵がいる

早速購入。またたくまに読了。


単純に、おもしろかった。読みながら、思わず声に出して笑ったり、涙をこぼしたり。
主人公の女性編集者が欠点だらけなのがとてもよくて、
ああ、そんなこと言わなきゃいいのに〜、というようなことを、つい言ってしまうのだ。
たとえば、冒頭近くのこのセリフ。
  「……みんながあなたのようなことを言い出したら、PTAなんて成り立たないじゃないですか」
  「成り立つ必要があるんですか?」ごく冷ややかに陽子は言った。
  「見たところ、いらない仕事もずいぶんあるみたいですけど? 
   整備委員の花壇の世話なんて、なんで保護者がこんなことする必要があるんです?
   成人委員の保護者向けレクリエーションだって、平日の昼間から保護者が集まってお茶会?
   フラワーアート? そんなのに集まれる暇な方が役員をやればいいんじゃありません?
   他にも、教室で使うカーテンの洗濯だとか、七夕の笹の運搬だとか、
   子どものためなら必要ないとは言いませんけど、余計な委員や行事を削って、
   その分の予算で専門業者に頼めばいいだけの話じゃないですか」(13−14ページ)
くわあ、痛快。働く女性からしたら、まったく正論。よくぞ言った。
でも、公立校のPTAの集まりでこんな正論吐いたら、そりゃあ煙たがられるわ。
従姉も「実はわたしも娘のPTAで同じようなことを言っちゃって……」と言って苦笑していた。


この小説のいいところは、細部のリアルさだ。
セリフはやや大げさにデフォルメされているような気がするけれど、
細部、たとえば上記の引用部分で言えば、「七夕の笹の運搬」みたいなところに、わたしはぐっとくる。
花壇の世話とか、保護者向けレクリエーションとかは、まあ、あるだろうな、と思う。
でも、「七夕の笹の運搬」って、ありそうでなさそうでありそう、な感じ。
著者の実体験からくるのか、取材が見事なのかわからないが、
そういう細部のリアルに支えられ、「ブルドーザー女」の主人公に思いきり共感しつつ、
あっという間に読み終えた。
わたしのような者が読んでもおもしろいが、
やっぱりこれは、仕事に子育てに奔走しているワーキングマザーのあなたに(ってだれだ?)おすすめ。


現在、通勤読書用の携帯本は、「考える人」の最新号。

考える人 2010年 08月号 [雑誌]

考える人 2010年 08月号 [雑誌]

わたしは村上春樹ファンではないのだけれど、
編集長の松家さんが新潮社での最後の仕事として選んだということで、
このロングインタビューは読んでみようかな、と思って買った。
松家さんという方は、翻訳家時代から今に至るまで、ずっと憧れの編集者だった。
以前は松家さんが担当していた、クレストブックスをはじめとする新潮社の文芸翻訳が、
翻訳家としての自分の最終目標だったし、
松家さんが編集長をしていた雑誌「考える人」は、誌面デザインや特集企画の立て方、連載執筆陣の選び方など、
編集者としての自分の好みに合っていて、おおいに参考にさせてもらっていた。
「考える人」の編集長をやめるっていうのはわかるけど、定年前に会社をやめるっていうのは、なぜなのかな。
最後の企画が村上春樹っていうのは、ありがち、って気もするけど、
きっとものすごく考えて決断したんだろう、と思う。
たしかに3日間にわたるインタビューってのはちょっとすごくて、
電車の中で一気に読む、という気分にはなぜかならなくて、ちょっとずつ楽しみながら読み進めている。
というわけで、実はまだ途中。3日目が翻訳の話のようなので、ここはまた格別に興味があるのだ。
村上春樹の話もだけれど、むしろ松家さんの話に。


今日は仕事でちょっとショックなことがあり、
しょんぼりして帰宅。
別にだれが悪いわけでもなく、不可抗力というか、仕方がないことだったんだけど。
帰宅したら定期購読の文芸誌3冊が届いていて、少し元気になる。
さて、どの記事から読もうかな。