幸福な週末

土曜日、お世話になっている方のお宅におじゃまして夕食をご馳走になる。
心あたたたまる歓待を受け、すてきに育っている子どもたちと話し、
今更ながら家族っていいなあと思う。実家の両親のことや、兄のこと、死んだ妹のことを思い出す。
涙腺のゆるいわたしは、少しだけ涙ぐんでしまう。


日曜日、誕生日のプレゼントを買いに(買ってもらいに)同居人と吉祥寺へ。
今年はぬいぐるみを買ってもらうことにする。
実は全然イメージじゃないと思うのだが、わたしはぬいぐるみが好きで、
わたしの部屋の四方を取り囲むスライド式本棚の上には、
歴代のぬいぐるみたちがずらりと並んでいる。
彼らにはそれぞれにきわめてシンプルな名前がついている。
「うさこ」「こんた」という具合に。


ただ、ここ何年か、ぬいぐるみを買うことができなかった。
ぼろぼろになった「うさこ」を見るたびに、妹と「うさこ」と三人で遊んだ時間が思い出され、
またしても涙が出てきてしまうのだ。
でも、「今年は大きいぬいぐるみでも買おうか」と同居人に言われて、
なんとなく、あ、それもいいな、と思った。
時間を一緒に過ごした人を失うことをおそれてばかりいても、仕方ないからね。


玉川上水沿いの道を自転車で走って、紅葉まっさかりの井の頭公園を抜けた。
がんこおやじのやっている、でも抜群に美味しいとんかつ屋さんに入って、
わたしは「レディス定食」彼は「カキフライ定食」を食べ、
東急、伊勢丹ユザワヤのぬいぐるみ売り場をまわった。
何しろふだんからおもちゃ売り場なんていうものには行き慣れていないので、
どこへ行ったらよいかもわからず、ウロウロするばかり。
結局、気に入ったものがなくて、「また今度」ということになり、
二人が「行き慣れている」パルコのブックセンターへ。
この本屋に来るたびに思い出す人がいて、その人もいまはこの世にいない。
他の売り場を見ているときは忘れているのに、数年前にその人に会った人文書の平台の前に立つと、
その人の独特のたたずまいのようなものが思い出されて、切ないような、つらいような気持ちになる。


日の暮れかかった玉川上水沿いの風景はほんとうにきれいで、
「わざわざ観光地に紅葉を見に行かなくてもいいねえ」
と、半分負け惜しみのような感想を言い合いながら、家に帰ってきた。
なんということもない一日だけれど(結局プレゼントももらえなかったし……)、
何年もたってから思い出すのは、案外こういう一日なんじゃないかなあと思う。
書きながらなぜか涙が出てくる。


……『黄金のノート』の感想を書かなくちゃいけないのだけれど、
なんだか余裕がない。
そういえば今日パルコのブックセンターに行ったら、
レッシングの『草は歌っている』をはじめ数冊が復刊?されて並んでいた。
先日このブログで触れた『ラブ・アゲイン』も、しっかり何冊か平積みされていたし、
そろそろ「ノーベル賞効果」が出てきたのかも。