古典新訳文庫『地下室の手記』

地下室の手記(光文社古典新訳文庫)

地下室の手記(光文社古典新訳文庫)

読了。この語り手は、徹頭徹尾、いやなやつだ。
あとがきなどを見ると、「アンチ・ヒーロー」「暗い小説」などとあるけれども、
そういうきちんとした言葉を使いたくなくなるくらい、徹底的に「いやなやつ」で、
それがあんまり徹底しているから、かなり滑稽で、わたしには「暗い小説」とは思えなかった。


第?部は、語り手が言葉を尽くして非難する「屈託のない率直な連中ややり手タイプ」(22ページ)に、
自分を投影しつつ読んでいたので、語り手の支離滅裂なのか哲学的なのかよくわからないようなひとり語りに、
ちょっと傷ついたり苦笑したりしながら読み進めた。
いつまでも続く一人がたりにちょっと食傷してきたころ、いいタイミングで第?部は幕を引き、
少し動きのある第?部に突入。
第?部は、わたしにとっては完全にコメディー。とりわけ、将校のエピソードと、友人の壮行会に無理やり出席するエピソードは、
ものすごく滑稽で、あんまり滑稽なので、もの哀しかったりもする。
このエピソードのすごいところは、ここではかなり誇張されているけれども、
わたしたちは日常生活の中で、じつは似たようなことを繰り返しているようなところがあって、
ここで語り手のことを笑えるのも、笑ったあとでしんみりしたりするのも、
何となくひとごととは思えないからなんじゃないかな、と思いながら読んだ。


ドストエフスキー入門の1冊としては、なかなかGoodな感触。
幸先のよいスタートを切った感じ。
いよいよ明日から、大事にとってあった、亀山訳『カラマーゾフの兄弟』を読み始める。


夜、ETV特集を観る。
音楽評論家の吉田秀和氏に、作家の堀江敏幸さんがインタビューをするという企画。
わたしは音楽はあまり詳しくないので、クラッシックファンの同居人に解説をしてもらいながら観た。
その中で吉田さんが、「どちらがいいとか悪いとかはいえない」「一長一短なのでしょうが」と前置きをしてから、
「最近の音楽評論は、質の高い記録や報告にかわってきている。わたしは、評論というのはもっと、自分がどう聴いたのか、
自分とのかかわりにおいて、音楽を語るべきなのではないかと思う」
というようなことを言っていたのが印象に残った。