代休のすごしかた

会社の休暇システムがかわって、休日出勤した分の代休を、ものすごく一生懸命とらなくてはいけなくなった。
仕事の性格上、毎週のように土日に会議が入るので、かなり必死にならないと、会社の規定どおりに代休が消化できない。
仕事は山積みなのに無理やり休むので、結局はかなり長い時間、
パソコンにしがみついてメールを打ったり、あちこち電話をしたり、ということになる。
おまけにここぞとばかりにクミアイの仕事もせめてくるので、
せっかく代休をとっても、まるで会社に行ってるみたいに時間をすごしている。


それでもまあ、日当たりのいいリビングルームでひとり、昨夜アマゾンから届いた本をぱらぱらめくるくらいの時間はとれた。
小谷野敦編著『翻訳家列伝101』。

翻訳家列伝101 (ハンドブック・シリーズ)

翻訳家列伝101 (ハンドブック・シリーズ)

ハンドブックの形をとっているせいか、一見したところ、資料的な本かと思う。
実際、ここには明治時代から現在に至るまでの主要な翻訳家192人の略歴や代表作が掲載されていて、
資料的な価値は十分あるだろう。
でも、この本のおもしろさは、たぶん、じっくり読んでみないとわからない。
ぱらぱら読んだだけなので引用は控えるけれども、
「序文」にしても「概論」にしても、個別の翻訳家の説明にしても、
無味乾燥になりがちな略歴紹介の後に(時には間に)、
あっと驚くようなゴシップ的要素や、翻訳家の人となりが見えてくるようなエピソードが出てくる。
さらに項目によっては、著者自身の判断というか、感想めいたものも書かれていて、
これがなかなか、おもしろい。「へえ、そうなんだ」と思ったり、「え、そうかな?」と思ったり。
「推理・SF小説の翻訳家」という項目があるのがうれしく、
この中の「その他の翻訳家」のなかに、わたしの翻訳学校の師匠が入っているのもうれしかった。
あちこち拾い読みしていると、意外な発見があるので、これからちょこちょこと読んでいくつもり。
偶然か故意にか、この本の一番最後に紹介されているのは、平川祐弘だった。


それから、仕事の役に立つかも、と思って買った「yom yom」をぱらぱらと読んだ。

yom yom (ヨムヨム) 2009年 12月号 [雑誌]

yom yom (ヨムヨム) 2009年 12月号 [雑誌]

仕事には全然役に立ちそうにない、川本三郎のエッセイ「君、ありし頃」に、涙、涙。
癌で亡くなった奥様との最後の日々を綴った長めのエッセイで、
「幸せだった思い出を語るのが、いちばんうれしいことではないか」という副題がついている。
癌だと分かる半年ほど前に、マンションのリフォームをしたそうで、
そのときの奥様の楽しそうな様子、ご夫婦の仲の良さそうな様子が、もう、涙なしには読めない。
手術をした後、善福寺緑地を夫婦で散歩するのが日課になり、
毎日すれ違う常連さんたちに、奥さんが勝手にあだ名をつけていた、という部分にさしかかり、
   おしゃれな老人には「ダンディおじさん」、元気のいいお婆さんには「ミス・マープル」、
   二人の中年女性には「ヘレンとルーシィ」……(380ページ)
と読んだところで、なぜだかわからないが、号泣してしまった。
今こうやって書いていても、実はぼろぼろ泣いている。
この文章がなぜこんなに悲しいのか、よくわからない。
癌で死んだ妹のことがあるからか、川本さん夫婦の暮らしぶりが自分の今の生活と重なるからか。
奥様が亡くなって1年半経つというが、まだ悲しみは生々しく、「やっと」書いている、という感じがした。
「善福寺緑地に『思い出ベンチ』を置いてもらおうと思っている。
 あの公園の日々は、家内との最後の楽しい思い出だから。」(381ページ)
などと書いてあって、まあ、なんてダサいことを、とも思うけど、
文筆業者の言葉としてでなく、最愛の妻を亡くした初老の男の言葉として、しんみりと受け止めた。