「着物まわり」と「子どもの文学」

アブサロム、アブサロム!』読書の合間に、読了した単行本と雑誌のことを簡単に。
まずは『樋口可南子のきものまわり』。

樋口可南子のきものまわり

樋口可南子のきものまわり

フォークナーがつらくなったときのために購入した写真入りのきれいな本で、
母といっしょにぱらぱらと読む。
樋口可南子のきもの姿がほんとうに素敵で、
着物というのは若い人だけじゃなく、女性のそれぞれの年齢の輝きをいかしてくれる服だなあ、と思う。
もちろん、この本に出てくる人たちは、樋口可南子をはじめとして皆さん、
もともとの容姿そのものが常人とは違うわけだけれど、ね。
ここのところ着物関連の本をちょくちょく買っていて、
なかなかいい気分転換になる。


國文學8月臨時増刊号の特集は、<子ども>の文学100選。
和田忠彦さんと野崎歓さんの対談の最初に、この企画の趣旨のようなことが語られている。


   今日、話題にするのは、「子どもの文学」といっても、「文学の中の子ども」だし、
   「文学と子ども」をめぐるさまざまな現代的な問題です。
   だから、現在の文学についても過去の文学についても、子どもにかかわって、
   未来をも見通す話をしてみたい。そうすることで結果的には、
   いわゆる児童文学界の議論と重なる部分が、きっと出てくるでしょう。
   そうなれば児童文学者にも、わたしたち外国文学者にとってもよい。
   (和田さんの発言より:6ページ)


なるほど、つまり、児童文学プロパーではない人たちで執筆陣をかためて、
今までになかった切り口で児童文学や子どもを描いた文学作品を分析・検討してみよう、という試みなわけだ。
そういう目で読んでいくと、冒頭の対談をはじめ、前半に並んでいる論考25選は、
それぞれの著者が、それぞれの専門分野と「子どもの文学」との接点を独自に見出している感じがして、
(わたしにはよく理解できなかったところもあるけれども)、企画の意図どおり、
新しい切り口の提案になっているように思った。


わたし個人の問題なのかもしれないが、消化不良のような後味の悪い感じになってしまったのが、
後半のテーマ別子どもの文学75選、だ。
目次を見るかぎり、テーマの選び方も、そこにあがっている作品も、絶妙だ。
「もっと読みたい人のために」というコーナーで、日本の作品を、それも教科書に出てくるような作品を補充しているのもいい。
ああ、外国文学者はこういう作品を、どんなふうに論じるのだろう。
会社員としてのわたしが日々格闘しているこれらの作品を、
読者としてのわたしが熱愛する外国文学の研究者たちは、どんなふうに分析するのだろう。
かなりわくわくしてページを繰った。


……もしかしたら、わたしの期待が大きすぎたのかもしれない。
でも、読んでも読んでも、書き手の声はほとんどわたしのところに届かなかった。
そんなに難しいことが書いてあるわけではないし、
そこで論じられている作品はほとんど既読、または内容を知っている。
ただ、書き手はそこにあげられている一つ一つの作品を楽しんだり味わったりすることなく、
ある決まった観点で切り取るとこういう形になります、と提示しているだけ、という感じが否めないのだ。


「文学研究」というのをやっていると、幸福な平凡な読者であることがゆるされないのだろうから、
仕方がない面も多々、あるとは思うのだけれど、
でも、論じている作品に対してなんらかの強い思いいれ(マイナスでもかまわない)が感じられない論評や作品紹介は、
読者としてのわたしはちょっと受け入れがたいし、編集者としては残念な感じがする。
そしてそれはたぶん、書き手の外国文学者たちのせいではなくて、
このテーマでこの分量で全作品にふれつつまとめる、というのがそもそも無理なんだと思う。
そのうちの一つでも二つでも、書き手が「これは!」と思うものを選んでじっくりと分析して、
「あとは読んでみてね〜」という投げ出し方でもよかったんじゃないか。
一方で、わたしが注目していた「もっと読みたい人のために」については全員がひとこともふれていないのはなぜ?


……などなど、つい編集者目線になってキビシク読んでしまった。
なぜなら、この特集、まさにまさに、わたしがやりたかったような企画だからだ。
外国文学研究がもっと身近になってほしいし、
大人も子どももっと文学作品を読んでほしい。
そんな思いから、会社の○○周年記念の企画を3本出したんだけど、
みごとに全部、ボツらしい。(会社からは何の連絡もコメントもないし。)
そんな恨みや妬みの積み重ねがあって、いつになく辛口のコメントになってしまった、というわけだ。



今日は『アブサロム! アブサロム!』を読み続けている。
話はどんどん複雑になってきて、まもなく衝撃の新事実! が明らかになりそうな気配。
急いで夕飯のしたくをして、続きを読もうっと。