古典新訳文庫『赤と黒』

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)

「サイエンス・カフェ」での「外国文学万歳!」気分をそのままに、深夜2時、読了。
前半、ひたすらジュリヤンくんに翻弄されながら読み進めたのだが、
後半、わたしは令嬢マチルドに夢中になってしまった。どうもジュリヤンの視点から読むことに疲れてしまったらしい。
マチルドはジュリヤンに負けずおとらずの強烈なキャラクターだけれど、
いやいや、ジュリヤンが最後まで崇拝し愛をささげるレナール夫人より、はるかに魅力的ではないか。
この勇敢さ、大胆さ、情熱の強さ。
スタンダールの『赤と黒』という作品は、帯にあるように、
「抑圧的な社会で激しく苦悩する魂の葛藤を描いた、情熱の文学」であるのは間違いないのだろうけれど、
現代的なことばに翻訳された野崎訳『赤と黒』を読んだ「女性」であるわたしの印象は、
「ジュリヤン・ソレルという類まれなヒーローと、彼をめぐるまったく異質な二人の女性との、
それぞれの愛のかたちを描いた、おかしくもかなしい恋愛小説」という感じだった。
つまり、抑圧的な社会がどーのこーの、という社会背景の部分があまりよく理解できなくて、
だからかもしれないけれど、悲劇的であるはずの恋のかけひきやラストシーンがなんとなく滑稽でもあり、
素朴な言葉遣いのジュリヤンをはじめ登場人物がみな、なんだかとても身近な感じがして、
とびきり高級なドタバタ通俗小説のように読めてしまったのだ。


それにしても、高校生のときの一番の愛読書が『赤と黒」だったという野崎さんは、
やっぱりジュリヤン・ソレルに感情移入して読んでいたのだろうか……。


あれやこれやでだいぶたまってしまっている「古典新訳文庫」。
次は、カフカ、ロンドン、の順で読むぞ〜。