古典新訳文庫『ヴェネツィアに死す』

ヴェネツィアに死す (光文社古典新訳文庫)

ヴェネツィアに死す (光文社古典新訳文庫)

読了。
ストーリーのあらましは知っていたけれども、きちんと読んだのは初めて。
期待以上におもしろかった。
個人的には美少年の描写についてはあまり関心がなくて、
威厳あふれる老作家がだんだんと壊れていくさまと、
病におかされたヴェネツィアの町の描写の組み合わせがなんとも言えずよくて、
やはり「古典新訳文庫」には、わくわくする韓国ドラマとはまったく別種の楽しみがあふれているなあと実感した。


この作品は、わたしの大好きな「だめ男小説」だ。
美少年タッジオとであってからの老作家アッシェンバッハは、わたしの考える典型的な「だめ男」。
知的で、落ち着きがあり、職業人として、芸術家として「成功者」であるはずのアッシェンバッハが、
タッジオと目があうとどぎまぎしたり、ぐずぐずとあとをつけたり、
自分を少しでも若くみせようと美顔術をうけたり(涙ぐましい……)。


ラストシーンは意外にあっけなかったけれども、それはそれでいいのかもしれない。
ストーリーはあってないようなもので、
繰り返し出てくるヴェネツィアの町が、もう一人の主人公という感じ。
一文が長くて、静かに流れるような訳文は、おそらく原文の文体をうまくうつしとっているのだろう。
時々、周囲の文体にふさわしくないような言葉(「ジプシー根性」とか、「体がえんこする」とか)や、
日本語的ないいまわし(「好きな言葉は『堅忍不抜』」とか、「おひねりを狙う芸達者たち」とか)が出てきてぎょっとしたけど、
もしかしたらこれもわざとなのかな。


さて、次は順番からすると、トロツキーレーニン』。
うーん、読めるかなあ。「回想録」だから、あまり難しくないかもしれないので、
とりあえず、チャレンジ。


それから、先日、英語の短編アンソロジーを買ったので、
英語を読む練習もかねて、少しずつでも読み進めることにしようと思っている。
英米を中心に、日本やフランス、ドイツなどの作家の作品も含め、全部で141編。
2ページくらいの短い作品もあるけれども、とりあえず1編読むごとに、
ブログにメモしていくことにして、なんとか最後まで読みきりたい。


#1  Rudyard Kipling "How the Whale Got His Throat"
  from "Just So Stories"