キプリング『プークが丘の妖精パック』

プークが丘の妖精パック (光文社古典新訳文庫)

プークが丘の妖精パック (光文社古典新訳文庫)

読了。
子どものために書かれた本だけあって、設定がものすごくうまい!
ダンとユーナという二人の子どもがめちゃくちゃかわいいし、
二人の住むイースサセックスの風景がいかにもイギリスの田舎〜って感じで、
みるみる物語の世界にひきこまれていく。


文章も迫力があって、たとえば、ハドリアヌスの長城が見えてくる場面。
  

  飾りも何もない家の向こうの、木も何もない丘を、
  雲の影が騎馬隊のように駆け抜け、鉱山から黒い煙があがっている。
  踏み固めた土の道がどこまでも続き、
  風がうなりながらかぶとの羽飾りをなびかせ、
  忘れ去られた軍団や将軍たちの祭壇や神々や英雄たちの壊れた像のまわりをめぐり、
  山狐や穴ウサギがじっとようすをうかがっている墓石のあいだを吹き抜けていった。
  夏は燃えるように暑く、冬は凍えるように寒く、ごつごつとした岩と紫のヒースの広大な荒れ野だった。
  世界の果てにいると思ってはるか遠くへ目をやると、
  東から西まで目の届くかぎり点々と煙があがり、
  その下に、やはり目の届くかぎり家や神殿や店、劇場、兵舎や穀物倉庫といった建物が
  さいころのように散らばっている。
  そしてその先に――そう、必ずその先に、小さな塔が高くなり低くなり、見え隠れしながらどこまでも連なっているのだ。
  そう、それこそが帝国の防壁、ハドリアヌスの長城だった!
  (208−209ページ)


これはパルネシウスという軍人が、子どもたちに話して聞かせるせりふなのだが、
この語りのすぐあとに、

 
  「ああ!」子どもたちはため息をついた。


と続く。まさにこの場面、わたしも子どもたちといっしょに、思わず息をもらした。
見たこともないはずの「ハドリアヌスの長城」が、たしかに、見えてきたから。
これだから小説を読むのをやめられない。翻訳もうまいのだろう。
  

ただ、こちらの集中力の問題なのかもしれないけれど、
途中、「図面ひきのハル」あたりから、ちょっとだれてしまった。
児童文学としては、ちょっとキビシイかも。
(あー、でも、子どもの集中力って、時として大人以上にすぐれているから、
意外にがんがん読めちゃうのかもしれないけど)