北原尚彦『発掘! 子どもの古本』

発掘!子どもの古本 (ちくま文庫)

発掘!子どもの古本 (ちくま文庫)

読了。今週の月曜日に購入、火曜日には読み終えていた。
著者が同世代ということもあり、子どもの頃の読書体験があまりに似ていて苦笑。
ただし、こちらは一応、当時は「夢見る少女」だったので、
探偵小説やSFというよりは、やはり少女小説に夢中になったのだけれども。


とにかくすごくおもしろくて、電車の中で読みながらにやにや笑ってしまった。
残念ながらこの著者の方には、(かなり近い業界なのだけれど)お目にかかったことがない。
もしかしたら何かの忘年会などで、すれ違ったりはしているのかもしれないし、
荻窪の古本屋で並んで同じ棚を眺めたりしていたかもしれないけれども、
「どうも、どうも」と名刺交換などをしたことはない。
ただ、今の仕事(子どもの本関係)に変わらなかったら、きっとこの本のタイトルにひかれることもなかっただろうから、
読み終わってみたら、あまり今の仕事にとって直接の収穫はなかったのだけれども、
個人的にはどうしても著者に会ってお話をしてみたい!と強く思った本だった。
(というより、この本に出てくる「古本」たちの現物をみてみたい!!)


直接の収穫はなかった、と書いたけれども、じつは何箇所かページのすみを折ったところがある。
その中でも、まあ、絶対仕事のほうには影響ないだろうと思ったところのみ紹介。
(万一、同業者がこのブログを読むと困るので、念のため……)
  

  十か国をまたいだリレー探偵童話『オレンジ色のねこの秘密』
  正式なタイトルは何なのか?『名探偵ヘイロク』


いやあ、とくにこのリレー探偵童話っていうの、読みたいなあ。
何しろ、書き手の中には、今江祥智や「小さい魔女」のプロイスラーまで混じっているのだから、すごい。


と、なんだかこのブログの文章の書きぶりまで、こころなしか、著者の文体がうつってきてしまった。
わたしは古本マニアではないし、いわゆる「コレクター」のようなタイプの人はどちらかというと苦手なのだけれど、
この本はなぜかものすごくひかれた。なぜだろう、と考えてみたのだけれど、
やはりそれは、この著者の書きぶりが、ほんとうに楽しくて仕方がない、という感じだったからだと思う。
本を扱うことを仕事にしてしまうと、どうしても楽しいことばかりではなくて、
フリーだったら生活のこともあるし、会社勤めだったらサラリーマンとしての義務もあって、
自分が楽しいと思うことを、みんなが楽しいと思ってくれるわけもなく、
「読者のニーズが……」みたいなことを言われて、しょんぼりしたり、「何だい!」と開き直ったり、
そんなことをみんな、経験しているのだろうと思う。
この著者の人だって、そういう問題を抱えていないはずはないのだけれど、
そういうことすべて突き抜けて、古本のことを話すのが楽しくて仕方がないんだ、ってことが、
びんびん伝わってくる。「聞いて、聞いて」という声が、ほんとうに聞こえてくる。
この前、沼野さんのお話を聞いたときも思ったのだけれど、
本を扱う仕事の本質は、この「聞いて、聞いて」(読んで、読んで、でもいいんだけど)を、
読者に届けることなんじゃないだろうか。
……と、ここまで書いたところで、このような考え方は、「まず読者から出発せよ」という、
わが編集部の「部是」に反していることに気づいた。反省。
読者のニーズか、書き手の思いか、なんていうのは、もちろんバランスの問題で、
二者択一ではないのです。(と、言い訳。)


さて、今日はこれから、愛する光文社古典新訳文庫の編集者・翻訳者による、
早稲田大学エクステンションセンターの講座「古典の愉しみ、新訳の目論み」に行ってまいります。