石の葬式
思ったより時間がかかったが、『石の葬式』読了。
- 作者: パノスカルネジス,Panos Karnezis,岩本正恵
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2006/07
- メディア: 単行本
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評判どおり、いかにも「質の高い海外文学」という印象。
「立派なこと」や「正しいこと」は何も書いてなくて、
小さな田舎の村で生活している普通の(はずの)人々の、普通の(はずの)日常を描いているんだけど、
これが全然、普通ではない。
一編ずつは独立した短編なのだが、同じ村を舞台にして登場人物もかぶっているので、
この本一冊を最後まで読み終わると、
この本にでてくる「しょーもない」人たちが、なんだか自分の隣人のような、
故郷の村の人々のような気になってしまう、そんな力のある作品。
表題作のタイトルを使った「石の葬式」というタイトルももちろん悪くないが、
訳者あとがきに書かれている原題「ささやかな不道徳」は、
この本の全体像を、それから、すぐれた文学作品がもつ魅力を、
よく表しているんじゃないかなあ、と思った。
……などということを考えたのは、今日、本屋で、
『テヘランでロリータを読む』という本を購入し、訳者あとがきを読んだから。
- 作者: アーザルナフィーシー,Azar Nafisi,市川恵里
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2006/09
- メディア: 単行本
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このブログでは、読了した本や雑誌を紹介することを原則としているのだけれど、今日は例外。
翻訳家の市川恵里さんはこの本のことを、
現代イラン女性の類まれな回想録として、
また文学への愛に満ちた、ユニークな文芸批評の書として、
ぜひ多くの方に読んでいただきたい傑作である。
と記している。さらに、
著者にとって、文学(フィクション)とは、現実を超えたもうひとつの世界であり、
現実のくびきへの抵抗であり、精神の自由をあたえるものにほかならない。
著者は全編を通じて、想像力と、想像力によってつくりだされた世界の大切さを、
また、他者の気持ちをわがことのように感じ、理解する、共感能力、感情移入の能力の大切さを、
くりかえし強調する。
と書く。
そうなのだった。自分自身をふりかえったとき、
図書館通いをしていた小学生時代から、テニスに明け暮れた中学・高校時代、
バブリーな消費と恋愛にまみれた大学・OL時代、それから専業主婦になったり学校の先生になったり、
何をやってきたのか思い出せないくらいいろいろな仕事をしてきた30代、
とにかく自分の中で何が1本通っていたか、何が絶対にゆずれないものだったか、と考えると、
「文学(フィクション)の力を信じる」ということなのだった。
市川恵里さんは、先の引用に続けて、「こうした文学観は、ほとんど古風といってもいいかもしれない。」と書いている。
そのとおりなのかもしれない。
たとえばいま、国語教育について語るとき、
「文学の力」なんてことを口走ったら、「何おくれたこと言ってるの?」と怪訝な顔をされること必至だ。
いわく、日本の国語教育は文学偏重であり、実の場で役立つ「ことばの力」を身につけるものではない。
ほんとうにそうか? 文学偏重、というほど、文学をきちんと扱っているか。文学を文学としてきちんと子どもに届けているのか。
実は、翻訳者の市川さんは知人である。
7〜8年ほど前、彼女は私の通っていた翻訳学校に入学してきた。
当時、彼女は翻訳のキャリアはほとんどなかったし、他のメンバーにくらべて年も若かった。にもかかわらず、
授業に慣れてくると、めきめきと頭角をあらわした。
テキストに対する姿勢が、私自身も含めクラスのほかのメンバーとはまるで違っていたように思う。
共訳で本を出すことになったときには、ほかのメンバーの訳文に対してかなり手厳しく批評し、
編集者や、時には師匠に対しても、「物申す」ことをいとわなかった。
そのためにいろいろ軋轢があったりして、彼女も私もまもなくその学校を離れ、今は連絡もとっていない。
そんな彼女の訳書だから、「おお、『ご祝儀』で1冊、買ってあげよう」くらいの気持ちで購入したのだけれど、
いやはやどうして、市川さんはどうやら、「訳者あとがき」を通して、
教育の世界で迷子になっている私に、「しっかりせい」と叱咤してくれたようである。
ちなみに、今日は代休で終日休み。
朝、組合の動員で一橋出版へ。「シュプレヒコール」はわりとすき。
吉祥寺のパルコの本屋で上記の本のほか、
アンドレイ・クルコフ/前田和泉訳 『大統領の最後の恋』
雑誌「AMERICAN BOOK JAM」と購入。どちらも翻訳者・編集者などが知人なので、
先ほどの「ご祝儀気分」で買ったもの。
クルコフのほうは、何しろ分厚いのでちょっと読み始めるのに勇気がいるが、
近いうちに必ず読むつもり。
雑誌のほうは、お昼を食べながらぱらぱらと読む。
冒頭の2本「ジャック・ケルアックのサンフランシスコ」と「ホールデンの歩いたニューヨーク」が、
企画として面白かった。
久我山に戻って啓文堂でも本を物色。
小旅行の車中読書用に、文庫版の小野寺健『イギリス的人生』を購入。
「AMERICAN BOOK JAM」を読んだので、あ、もちろん、イギリスもね、という気分で。
それから、「本の雑誌10月号」。
穂村弘さんのエッセイの最後、山村暮鳥の引用にしびれる。