会社名のこと

昨年の6月1日に、同居人と共同出資して北烏山編集室という株式会社を設立した。社名を軽く考えていたわけではないけれど、あまり凝った洒落た名前にするのは柄に合わない気がして、シンプルに事務所(=自宅)の所在地に「編集室」をくっつけた。すっかり休眠状態だけれどそれなりに愛着のある当ブログと、ツイッターの個人アカウント名に揃えてもいいかな、という気持ちもあった。「なんとか編集室」というのは、この業界での大先達である「藤原編集室」にあやかりたいというのもあった。二人でちょっと話して、うん、それでいいんじゃない、という感じですんなりと決まった。

 

会社としてスタートしてみてわかったのは、北烏山編集室、というのが意外に長くて言いにくい、ということ。仕事の電話や名刺交換の場で、北烏山編集室の〇〇です、というのが気恥ずかしさもあってスムーズに出てこない。でも、コピー機の業者さんやアスクルさんや宅急便やさんなどに繰り返し社名を名乗っているうちにだいぶ慣れてきて、最近では「北烏山編集室と申します」と社名のみで名乗ることすらできるようになってきた。出版社の編集者さんへの電話口でもすらすら言えるようになるまでもう一息、という感じだ。

 

ところが、ところが。今年に入って、いよいよ自社出版に挑戦することにした、という話を前職の元同僚にしたところ、「会社名どうするんですか、まさかこのままじゃないですよね」と言われたのだ。そして、「え、このままだよ、どうして? 変かな?」と聞いたら、「変ですよ、絶対。北烏山編集室、って出版社の名前、ないですよー」と、きっぱりとしたお返事。こういうことには全く自信のない私は、えーでももうISBN出版者コードもとっちゃったし、今更変えられないよーどうしようーと、ちょっと泣きそうになってしょんぼりと帰宅。同居人におそるおそる報告した。

 

同居人は、全然気にすることはない、という。彼は蘊蓄野郎なので、いろいろと変わった出版社の名前をあげて、それがどんな会社かとか、どんな本を出していたとか、教えてくれた。出版社だからってなんとか出版とかなんとか書房とかなんとか社とかなんとか堂とかしなくちゃいけないという決まりはないよね、というのが私たちの統一見解だった。

 

ところが、ところが。今年は久しぶりにお花見をして、出版関係者を含む数人が集まっていた席で、恐る恐るこの社名の話題を出してみた。すると複数の人が、「たしかに、ちょっと変」とおっしゃる。「でも、それがいいんじゃない、ちょっとひっかかる、というところが」「私は好きです、この社名」と補足はしてくれたのだけれど。それで、勇気を出してどこが変なのか、聞いてみた。そうしたら、まず、「烏」が、次に「北」が目に入って、なんだかちょっと、ね、というお返事。そうか、ひっかかっていたのは「編集室」のほうじゃなくて、「北烏山」のほうだったのか、と納得(だけど地名だからどうしようもないよね)。さらに、言葉のリズムやひびきに一家言ある大学教授からは、語呂が悪い、言いにくい、いっそ「北烏山商事」にしたら、などという珍提案も出て、とにかく散々けなされたのだけれど、最後に「でも、ひっかかりがあるほうが、意外に印象に残るということもある」と妙に説得力のある口調で話してくれた編集者のおかげで、「よい社名」である、ということで一件落着。

 

北烏山編集室刊の最初の一冊は、年内刊行を目指して少しずつだけど企画進行中。がんばるぞー。