吉祥寺の休日

ヘルプの仕事が終わったのもつかの間、土日は編集会議、月火は営業説明会と、気の抜けない日々が続いた。
年度末の最終日となる今日、やっと代休を取得。
まずは思う存分朝寝坊。自転車通勤の同居人を送り出すためいったんごそごそ起きたけれど、
そのまま布団に逆戻り。9時半くらいまで布団の中でぐずぐずと過ごす。ああ、至福。


お風呂に入ってからぼんやりとテレビを観る。
気づくと「暴れん坊将軍」を最後まで観てしまった。
なんと無意味は時間の過ごし方。でもいいんだな、これが。
暴れん坊将軍」って、たいていの場合、悪代官を懲らしめる話と庶民の人情話がセットになっていて、
単純といえば単純なんだけど、ストーリーが結構よくできてる。


13時に美容院を予約していたので、吉祥寺行きのバスが出ているバス停へ急ぐ。
バスの中で、元アイドルか元モデルと思われる、めちゃくちゃきれいなお母さんに会った。
メイクの仕方とか、仕草とか、どう見ても常人とは違う。
小学生くらいの娘を二人連れていて、こちらもそれなりに可愛いけど、お母さんにはかなわない。
さらにこのお母さんは、娘から「ねえ、ママ、1から20まで全部足したらいくつ?」と訊かれて、
ちょっと考えてから、「ええと、220かな」と答えていた。
うー、すごいなー、きれいなだけじゃなくて賢いんだ−。


などと感心をしつつ、美容院へ。
初めての美容院だったんだけど、美容院というよりはおしゃれなカフェみたいな内装で、
カラーの間にちゃんとしたカップでコーヒーを出してくれたり、なかなか良かった。
カラーをしてくれた若い男の子と雑談していて、
「教科書の仕事をしてる」と言ったら、
「あ、今朝、ニュースで見ました。小学校の教科書が脱ゆとりで新しくなるって」と言われ、あーっっっ、と。
なんということ、自分がこの三年間、無我夢中でやってた仕事がニュースになってるってのに、
わたしはぐーすか朝寝坊したうえに、「暴れん坊将軍」なんか観ちゃってたのだ。
ま、いっか、と思い、「そういえば、この美容院の隣のビルにある、『魚真』って、美味しいよ」と話題を変えたのだった。


美容院を出て、武蔵野文庫でカレー。
ぶらぶら歩いているうちに見つけたもみ処にふらりと入る。
「かなり凝ってますね」「お疲れなんですね」と言われ、
「かわいそうな私」気分を満喫。
夕飯の買い物をして帰宅。
夕飯は、同居人が食べたがっていた、グリーンピースの炊き込みご飯をつくる。


朝たっぷり寝たから眠くない。
読みかけだった阿部公彦『英語文章読本』を読了。

英語文章読本

英語文章読本

凄い本だと思った。
どこが凄いかというと、まず、
毎日見ているので勝手に知り合いのような気分でいる「晩鮭亭」さんがブログで書かれているように、
この本は「英語文章読本」といいながら、すぐれた日本語の文章読本にもなっていること。
単行本化にあたり、「英語青年」連載時はなかった日本語訳をすべての英文に付けたとのことで、
英語に限らず文章、とくに文学的な文章を読むときに、どんなことに注目して読めばいいか、ということが、
きわめて高度な内容にもかかわらず、おそろしく平易に書いてある。
「出だし」「小さく言う」「強さ」「スピード」「カッコ」……という章立てにしても、
いわゆる「文学研究者」の書いたものとは思えない「軽さ」「とっつきやすさ」がある。
そして、実例を次から次へととりあげて、手品みたいに「ほら、こうなんですよ」と見せる。
なんだか騙されているような気もするけど、あまりの手際の良さに、まあ、騙されてもいいか、という気分になる。


これだけで十分凄いんだけど、わたしがさらに凄いなーと思うのは、
一見クールに冷静に書かれているこの本に、著者の文学への素朴な愛情が秘められている、ということだ。
そんなふうに書くと、もしかしたら著者は怒るかもしれないが、
どんなに隠そうとしても、愛ってのは見えてしまうものなのだ。
そしてこの英米文学者の愛は、「英語」ではなく「文学」のほうに捧げられているように思う。
うーん、この著者による「日本語文章読本」を、ぜひ、読んでみたいものだ。


暴れん坊将軍」で始まった1日だけど、
文学への愛に包まれて眠りにつけそう。
はりきって鞄にいれた明日からの携帯本は、ヘンリー・ジェイムズ
つくづく、影響されやすい単純なわたし。とほほ。