イベント続き

学校が夏休みに入ったからだろうか、ここのところイベント続き(いまや仕事は学校とは何の関係もないはずなのだが)。単なる飲み会から対談、講演、読書会、と、いろんな種類のイベントに顔を出している。そのうちのひとつ、近隣の翻訳者が集まる会合に出席した折、見知らぬ人から「北烏山さんですか?」と声をかけられた。名札には本名しか書いていないのに、なぜ彼女が私のことを特定できたのかはわからないけれど、とにかくその人は、「ブログ、読んでました」と言って、「楽しく読んでいたのに、更新が止まってしまって残念です」と続けた。嬉しいような、恥ずかしいような、でも嬉しい気持ちが勝って、初対面のその方と、いろいろお話をした。話しながら、あー、やっぱりブログはツイッターとは違う、まとまった文章を書くのは確かにちょっと大変だけど、仕事とは関係なく個人として、読んだ本の感想や、そのときどきに思ったことを書いておくのは、後で読み返すのも楽しいし、ときにはストレス発散になる、がんばって続けよう、と考えていた。


その後、ナボコフについての講演会に行ったり、『蠅の王』の読書会に行ったりと大忙しで、ブログのネタには事欠かなかったのに、やっぱりブログを書くことができなかった。書けない理由のひとつに、自分の趣味の世界と仕事があまりに近づいてしまって、どこからどこまでがプライベート、どこから先は仕事、と分けることが難しくなっている、ということがある。ナボコフについての講演会は、千代田区掲示板で偶然見つけたものだけれど、仕事関係の著者が講演者だった。難しい話になるのではと身構えていたのだけれど、意外にも講演の内容は平易で、ナボコフ作品をひとつも読んだことがない人でも、十分に興味を持って聞ける、ある意味では下世話なお金の話がテーマだった。とはいえ、そういう下世話な話から「文学の価値」といったことに持っていく展開は見事で、気づけば手元の資料には、アメリカの教科書に取り上げられる作家リストとかが載っていて、なるほど普通の文学好きがぼんやりと聴きにいっても十分楽しめる内容、あーおもしろかった、と会場を出ようとすると、そこに通信制大学院の入学案内が積んであって、「いかがですか?」と声をかけられる、という段取りになっていた。一瞬、大学院で文学を学ぶ自分の姿というものを夢想した。


昨日は「蠅の王」の読書会。最近、新訳で再読したばかりだったのと、訳者の黒原さんも出席されると聞いて、わりと軽い気持ちで申し込んだ。前日になってもう一度読み返しておこうと本を探したけれど、どうしても見つからない。当日本を持たずに参加するわけにはいかないと思い、急遽、Kindleで購入して会場へ向かった。先日の翻訳者の会合もそうだったのだけれど、予想以上の人数で、うわー、『蠅の王』について語りたい人がこんなにたくさんいるんだー、とまずびっくり。そして参加者一人一人が、とてもしっかりはっきりと、自分の意見、自分の読み方を持っていて、慣れた感じで自己紹介をしていく姿に二度びっくり。思えば20年以上前には、国語教師として生徒たちの前で話をしていたはずなのだけれど、どうも年をとるにつれ人前で話をするのが苦手になってしまい、最近は会社の企画会議のプレゼンも、話す内容をすべて紙に書いておいてそれを読み上げる、という状態。それでも仕事だと思えばなんとかがんばれるのだけれど、個人としての自分が『蠅の王』という小説をどう読んだかなんて、なんだかまったく自信がなくて、ひゃああああ、とにかく好きなキャラクターはラルフです、とそれだけ言うので精一杯だった。

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)


でも、となりに座っていた方とお話をしたり(小学校の図書館司書さんだった)、帰り道にご一緒した方とツイッターのアカウントを交換したり(大学院で通訳翻訳を学んでいる方でした)、読書会そのものはもちろん、いろいろと新しい出会いがあって、自分は何もしゃべれなくても、人の話を聞いてるだけでも楽しいので、まあそれが許されるような場ならば、時々、こういうのに参加してみるのもいいかな、と思った。何度も会を重ねていけば、もしかしたら少しは自分の意見も言えるようになるかもしれない。


今日はどうしても「ミステリマガジン」が買いたくて(ホームズ特集だったので)、自転車で仙川の書原まで猛暑の中出かけて行った。ネット書店をはじめ、大手チェーン書店でさがしても見つからなかったのだけれど、さすが書原、1冊だけ置いてあった。あわててキープ。ほんとうは宮田昇さんの新刊も欲しかったんだけど、残念ながら書原には置いてなくて、かわりに講談社文芸文庫のトマス・ウルフ上下と、お料理の本を買った。帰宅して早速、「ミステリマガジン」の冒頭、日暮・北原対談を読む。すごいネタバレ。だけど、DVDとNHKでシーズン4を観ているので、ネタバレはこわくない。ただし、お二人の知識のレベルが高すぎて、話の内容がはっきりと理解できるのは30%くらい。あとはぼんやり、なんとなく想像がつくのが40%、残り30%ほどは、もう、外国語みたいだ。いやあ、ホームズクラブの人たちは、ああいう話も全部するっと理解できるのかしら。そういえば先日、わたしは人生初のファンクラブ入会という経験をしたのだ(正確に言うと初ではない。ここ数年、同居人のチケット獲得のために、彼の好きなアーティストのファンクラブの会員になっている)。自分の意思で入会した初めてのファンクラブが、ホームズクラブだったということだけど、これはもしかしたら、相当無謀だったのかもしれない。ツイッターでは「ホームズクラブは怖くない」がジョークのネタにされているくらいだから、ほんとうは怖いのかも。でも先日、ホームズクラブの会合ではないが、ベネさまの誕生パーティという企画に参加してみたところ、思いの外楽しくて、こういうの、悪くないな、と思ったのだった。ここでもとなりに座っていた方とお話をして、ツイッターアカウントを交換して、と、これまでの人生ではあまりやってなかったようなことを、体験したのだった。