自己啓発本ベストセラー

昨日は実家に顔を出し、今日は自転車で近所に初詣(というか、お参りしてないので正確には屋台の焼きそばとたこ焼きを食べに)行った以外は、ほとんど家にいてダラダラと過ごすお正月。読書もがっつりした小説を読み始めるパワーがなくて、年末に通勤読書用に買った自己啓発本のベストセラーを飛ばし読みした。大変興味深かった。

フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ“暮らしの質

フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ“暮らしの質"を高める秘訣~

もちろん、この本は50歳のオバさんを「啓発」するために書かれたものではない。読者ターゲットはおそらく10代後半〜30代前半くらいまでの女子。何といってもタイトルがうまい。書店で平積みされているのをぱらぱらと立ち読みして、わたしが20代の頃にベストセラーになった同種の自己啓発本を思い出し、読者である日本の女の子たちの価値観が、ずいぶん変わってきているんだなと思って買ってみたのだ。そのバブルの頃のベストセラー本というのは、これ。
恋も仕事も思いのまま (集英社文庫)

恋も仕事も思いのまま (集英社文庫)


どちらも著者はアメリカ人。「思いのまま」のほうは、米誌「コスモポリタン」の編集長で、タイトルからもわかるように、仕事も恋愛も、とにかく貪欲にバリバリとやる。よく言えば向上心、平たく言えば上昇志向のかたまりのようなライフスタイルを提案している。欲しいものすべてを手に入れるために、努力、努力、努力。自信にあふれ、積極的に自分を売り込む人こそ輝いている、という考え方は、当時の日本の女の子たちにとって新鮮だったのは間違いない。お茶汲み・コピー取りからのキャリア形成、洋服やお化粧への投資、若さと美を保つためのダイエットとワークアウト、奔放なセックスライフ。遠い海の向こうの世界の話が、いつしか日本の社会にも、じわじわと浸透しはじめた。


一方の「10着しか持たない」のほうは、上記のようなアメリカ社会で育った女の子が、フランスでホームステイをして学んだ「シック」なライフスタイルを紹介する。こちらで大切にしているのは、身の丈にあった良質な暮らしだ。ここで奨励されている「シック」な暮らしは、驚くほど昭和の日本の生活ぶりに似ている。朝起きたらちゃんと着替えて朝食をとる、とか、ジムに行くかわりに家事で体を動かす、とか、ふだんの食事をきちんと手作りすることが大切、とか。まあ、母たちの世代からしたら、当たり前のことばかり。(立ったまま、あるいは、歩きながら物を食べない、と書かれていたのには正直、驚いた。)


そしてこの本が、いまの日本でベストセラーになっている、ということは、この提案がいまの日本の女の子たちにとっては新鮮だった、ってことなのだろう。本を読むこと、紙の新聞を読むことも奨励されている。ハリウッド映画ではなくてインディペンデント系の映画を観よう、美術館に行こう、という呼びかけもある。世間的な上昇志向より文化的な豊かさ。時代は案外、いい方向へ向かっているのかもしれない、と思ったり、なんとなく、物足りないような気持ちになったり。意外に複雑な心境なのだった。