メンテナンス

わたしはとにかく体力が自慢で、これまで相当無理をしても、大事なときに風邪をひいたり熱を出したりということはなかった。38歳のときにいまの会社に中途入社してからは、とにかく出遅れているのだし、頭の回転が速いほうでもないので、まずは誰よりも体を動かそうと思って、残業、休日出勤も厭わずがんばってきた。最初の頃は若い人たちといっしょに徹夜だってできたのだ。


それがいつからか、1晩徹夜すると翌日は使いものにならなくなり、深夜残業を続けるとミスが増えるようになってきた。階段をかけあがれば息があがるし、立ったり座ったりするときに「よっこらしょ」なんて言うようになった。あーさすがにわたしも体力が落ちてきたんだなーと思うようになったのは、この5年くらいのことだ。幸い、5年くらい前から夜10時以降は残業できないシステムになり、(ピーク時には何日か持ち帰って明け方まで仕事をすることもたまにはあったけど)午前様帰宅は激減した。それでも、毎晩11時過ぎに、久我山駅から家までの坂道を自転車で立ち漕ぎしながら、こんなことしてる40代後半の女の人なんてあまり見かけないよなあと思って、情けなさに涙が出たこともある。そしてとうとう、昨年の人間ドックで病気の徴候が見つかり、人生初の入院・手術を経験することになった。


それで思ったのは、年をとったとかもうおばさんだとか愚痴るのではなくて、自分の体力とか気力・持続力をちゃんと把握して、それなりにメンテナンスすることが必要なんだな、ということだ。精神的にも肉体的にも、無理をして無理をして無理をして……最終的にばあーん!と爆発して周囲に迷惑をかけるのではなくて、そうならないように、自分でコントロールして、まあ、自分の心と体を自分でいたわってやる、ということか。(だれもいたわってくれないからねー。)


この4月に11年間夢中でやってきた教科書の仕事を離れることになって、仕事の内容はもちろんだけれど、職場も、上司や同僚も、生活のリズムも変わった。これをきっかけに、今まで怠っていたさまざまなメンテナンスをこころがけるようになった。そのひとつが、仕事の変化にともなって、5月から英会話を習い始めたこと。これは、翻訳家時代の仲間からしたら、「何を今さら…」と思うかもしれないし、自分でもちょっと恥ずかしいんだけど、でも5ヶ月続けてみて、これは大正解だった、と思ってる。仕事に直結しているわけではないが、まったく無関係ということもなく、記憶を掘り起こしつつ新しいことを学び、まさに頭脳のメンテナンス、というイメージ。出社前の早朝、週2回。先生にも恵まれ、毎回楽しくレッスンを受けている。英語力が飛躍的にのびた、とは思わないけれど、まあ、自分が楽しければそれでいいんじゃないかな。


で、今日月曜日の朝は、その英会話のレッスン。月曜日はいつもイギリス人の先生で、出版業界や本の話題をふってくれるので、退屈することは全くない。今日は、宗教の話をしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。先生がイギリスにいた頃の上司がイスラム教徒だったそうで、先生の話が面白すぎて英会話のレッスン中だってことを忘れた。


朝、頭のメンテナンスをして、夜は心と体のメンテナンス。あ、今日は昼休みに、会社の近所のカイロプラクティックに行ったんだった。数週間前、大事な仕事の校了直前に、じっとしていても痛い、ってくらいの激痛が肩から背中にかけて走った。わらにもすがる思いで、「脅威の改善率!」と看板を出していたカイロプラクティックに飛び込んだ。半信半疑だったんだけど、これが、治っちゃったんだな。それで、最初は5日後、1週間後、2週間後、って感じで、4回くらい通ったんだけど、いまやほんとに、肩こり・腰痛、さようなら、って感じ。


で、アフターファイブは先日両親といっしょに入会したばかりのスポーツジムへ。先日オープンしたばかりで、あまり宣伝もしていないせいか、スタジオプログラムもロッカールームもめちゃくちゃゆったりしてて贅沢。先週に引き続き、ホットヨガのプログラムに参加したんだけど、インストラクターはかなりレベルが高い感じで、人数が少なくて申し訳ないような気持ちになる。通常のジムの月会費で、一流インストラクターのセミプライベートレッスンが受けられちゃうわけだから、こちらとしてはほんとにありがたいんだけどね。まあ、だんだん人も増えてくるだろうから、いまのうちは贅沢を満喫しておこうかな、と思う。


帰宅すると同居人が夕食の用意をしてくれていた。メインメニューはサンマの塩焼き。すごい脂がのってて、大根おろしをたっぷりかけて食べた。やっぱり旬の魚は美味しいね。


というわけで、メンテナンスな一日が終わった。そういえば、仕事でもいま、先輩が担当してた本のメンテナンス(=増刷の処理)をしてる。著者がすごく立派な方で、内容もおもしろく、詳しくは書けないがメンテナンスのしがいのある本なのだ。明日は英語もジムも行かないので、さっき実家に寄ってもらってきた立派な松茸を使って、土瓶蒸しでもつくろうかな、と思っている。今日はこれから、ちょびっとだけ『バスカヴィル家の犬』を読んでから寝ることにしよう。