語学学習の効用

2冊読了。まずは2週間近くかばんの中に入っていた、この本。

見えない日本の紳士たち (ハヤカワepi文庫)

見えない日本の紳士たち (ハヤカワepi文庫)

グレアム・グリーンが好き、という人が結構いるのに、ほとんど読んでないな〜と思って、数年前に『情事の終わり』を読んだ。正直なところ、ふーん、という感じで、あまり好みではないかも、と思っていた。でも、表題作を別の方の翻訳で読み、あまり感心しなかったので、それが翻訳のせいなのか、そもそも原作が肌があわないのか確かめたい、というような気持ちで、本書を読んでみたのだった。


で、最後まで読んでみて思ったのは、グリーンって翻訳が難しいのかな、ってことだ。表題作はわたしの大学時代の恩師の一人でもある、高名で魅力的な先生が訳している。この短編に限っていえば、翻訳は先日読んだものより格段に良かった、と思う。でも、この作品に限らず、ほかの作品も、翻訳の文章が気になってしまって作品に集中できない、というのが正直なところだった。とくに前のほうの数編は、文体に慣れるのに時間がかかる作品なのに次々に訳者が変わるので、ますます集中できなかった。でも、どの翻訳者も、原書の独特の言い回しや比喩をうまくいかして訳そうと苦心しているのがよくわかる。なので、決して翻訳が悪い、というわけではなく、おそらくわたしがグリーンと肌が合わないのだろう、というのが結論。この中で個人的に一番好きだったのは、「ショッキングな事故」という短編。長さもほどほどで、国語の教科書に載せたいくらい、と思ったが、「教育上の配慮」により、まあ、無理だろうなあ。


さて、今日のブログのタイトルは、もう一冊の読了本から得た教訓。今朝の朝日新聞書評にとりあげられていたこの本を、早速買って読んでみた。

もともと対談はあまり読まないのけれど、赤坂真理の書評を読むかぎり、へー、これはわたしが常日頃思っていることが書いてある本ではあるまいか、と思い、購入。実際に、わたしとほぼ同世代の深澤さんと、一回り下の津村さんの対談は、わたしが会社の年下の同僚女性たちとしゃべっていることと、内容的にはかなりかぶっていて気味が悪いくらいだった。とくに、同じことを言っているようで、二人の世代の違いによる対処や表出の仕方の違いが結構際立っていて、なるほどなあ、津村紀久子の小説を読んだときのわたしの違和感は、こういうところからくるんだなあ、と納得してしまった。そんな津村さんの話の中でいちばん、なるほどそうかあ、と思ったのが、ブログタイトルにある語学学習の話。「将来は」「老後は」というような雑念は、ちょっと時間があくとその隙間にはまりこんで掻き回してくる、という話の流れで、津村さんはそれをやりすごすために、時々語学をやっているのだ、という(97ページ)。スペイン語に、ドイツ語に、ノルウェー語。なんでそんな使いもしない語学をやるのかっていうと、「語学って感情的なものがほとんどないからなんです」という。「家の裏にオレンジの木があります」みたいな文章をつくっていると、「わたしの人生はこれでいいのか」というような雑念、いま考えてもどうにもならないようなことに頭を占領されないですむ、というのだ。なるほど。たしかに会社の仕事が忙しいときは目の前のことに忙殺されて自分の将来やら老後やらについて考えることもないくせに、仕事が一段落して少し時間ができると、このままでいいのか、という疑問がふつふつと湧いてきて身辺整理をはじめたりしちゃう。そういうときに、「家の裏にオレンジの木があります」なんて文を学ぶのって、いいねえ。この例文がまたなんとも言えずいい。


この本は、今日、つつじヶ丘の書原で買ったのだけれど、一緒に買った本が、よしもとばななさきちゃんたちの夜』と、小山田浩子『工場』なので、現代女性作家祭り、なのだった。よしもとばななは同い年、小山田浩子は、嗚呼、おそろしいことに、20歳近く年下だ。よしもとばななはデビューの頃は全作品読んでいたのだけれど、最近はなんとなくご無沙汰していた。でも、先日テレビの取材で話しているのを聞いていたら、ああ、同世代だなあ、同じような感じ方、同じような苦しさを持っているんじゃないかなあ、と思い、誤解をおそれずに書くと、津村や小山田のような下の世代にくらべて、体温が高い感じ、他人に対して優しい感じがしたので、久しぶりに最新作を買ってみたのだ。小山田は文芸誌で「いこぼれのむし」を読み、この作家はおもしろい、と思っていたところへ、「工場」で新潮新人賞をとったと聞いて、買ってみた。イギリス文学祭り、が一段落したら、現代女性作家祭り、で、この二冊を続けて読んでみたいと思っている。


というわけで、イギリス文学祭りに戻り、明日の神奈川出張のおともは、『すばらしい新世界』に決まり。9時半に辻堂駅まで行かなくちゃいけないので、あー、もう寝なくちゃ。読み返さないで、更新しちゃおう。