大阪、滋賀、佐賀、北九州。

前日どこに泊まったのか自分でもわからなくなるくらい、出張が続いている。
それぞれの土地にどっぷりとつかっている人たちと話をするという仕事なので、
地域ごとの個性というか、特徴のようなものを肌で感じることができて楽しい。
佐賀では、初めて会ったときコワイ顔をしてて、結構毒舌で、「あ〜どうしよ〜」と思っていた相手が、
最後ににっこり笑って、「あなたの話には作っている本への愛が感じられて大変よかった」と言ってくれて、
思わず泣きそうになった。
高校時代に軟式テニスを一生懸命やってた、という人に会ったり、
1970年代から1冊も欠けることなくSFマガジンを買ってる、という人に会ったり、
東京のデスクの前にどーんと座っていたら到底巡り合えないような出会いがたくさんあった。
仕事関係のことなので、あまり詳しく書けないのが残念。


とはいえ、1週間の間に、関西と九州の出張が入るというのはさすがにきつかった。
途中1日だけ東京に戻った日も、どうしてもやらなくちゃいけない仕事があって10時過ぎまで残業になったし。
それで、関西のときは気持ちが落ち着かなくて本も全然読めなかったけど、九州では読みかけの平野啓一郎がどんどんおもしろくなって、
結局、へとへとのくせに小倉のホテルで2時近くまで読みふけり、読了〜!

決壊〈上〉 (新潮文庫)

決壊〈上〉 (新潮文庫)

決壊〈下〉 (新潮文庫)

決壊〈下〉 (新潮文庫)

北九州を含む複数の地方都市を舞台にした小説なので、小倉のホテルというシチュエーションはぴったり。
平野啓一郎って、前に何か読んだときに文体がごてごてしててあまり好きじゃないなあと思ったのだけれど、
この小説はミステリ仕立てになっていて、わたしはとてもおもしろく読んだ。
この世代の書き手がこぞってテーマにする「現代人の心の闇」的な話で、
ネットやメールが重要なファクターになっていることとか、家族の亀裂を描いたりとか、
そういった部分では「告白」や「悪人」など、映画化されたエンタテイメント小説に似ている。
あらすじや決め台詞のようなものだけ見ると、ちょっと陳腐かなあ、と思うんだけど、
どうしてどうして、読み進めるうちに、会話や行動の描写のちょっとしたところが抜群にうまくて、
小道具や舞台設定はいかにも「現代」だけれど、きわめて普遍的なテーマを描いた小説として読めた。
ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」と「罪と罰」をくっつけたみたいな小説、というとちょっと乱暴かな。
……とここまで書いてから、恐る恐る「平野啓一郎 ドストエフスキー」で検索してみた。
なあんだ、やっぱりドストエフスキーを意識して書いたのかあー、と納得。


ドストエフスキーといえば、12月3日の15時〜新宿で、亀山郁夫さんの公開講座があるらしい。
これ。 ↓
http://www.tokyo-gengo.gr.jp/
めちゃくちゃ忙しい時期だけど、奇跡的に会議が入っていない土曜日なので行ってみたいなと思っている。
こういう忙しいときに限って、魅力的なイベントが目白押しで、
いま、行きたいなあと思って迷っているイベントがさらに二つ。
いずれもジュンク堂トークセッションで、
・11月22日(火)中野三敏×加藤昌嘉「和本の読み方 物語の読み方―写本・版本・源氏物語―」
・12月10日(土)高山宏「だれも知らない漱石
うーん、どうしよー。上は50パーセント、下は20パーセント仕事がらみ、って感じだけど。


さらに、どんなに忙しくても絶対に行くと心に決めているのが、大学時代の恩師の最終講義。
わたしは大学時代、決して「いい学生」「優秀な学生」ではなかった。
英米文学科なのに英語が苦手で、読み書き文法はまだしもスピーキングとリスニングがからきしダメで、
まったく授業についていけず、大学1年の終わりには、かなり真剣に転部・転科を考えた。
でも、2年になってその先生の英詩の授業をとったときに、あ、これがわたしの考えてた大学の授業のイメージだ、と思った。
当時のわたしは、「社会に出たときに役立つ英語力をつける」というようなことをあまり考えていなくて、
将来なんの役に立ちそうもないけど、すぐれた文学作品をたくさん読んで、あれこれ考えたり話し合ったり教えてもらったりするのが大学の授業だ、と思っていたらしい。
4月には大教室にいっぱいだったその授業は、だんだん出席者が減ってきたけれど、
先生はそんなことおかまいなしで楽しそうにワーズワースの詩について語り、
テキストを読んでいる時間より先生が雑談をしている時間のほうが多かったような気もするけれど、
とにかくわたしは、やがて大教室に10名ほどがちらほらと座っているという事態になってしまったその先生の講義のファンになって、
3年時のゼミナール選択の際には、迷わずその先生のゼミを選んだのだった。
(ところが同学年でそのゼミを選んだのはわたしとわずかにもう一人だけで、週に一度のゼミは毎回先生の研究室のソファで優雅に行われることとなった。
 おかげで劣等生のわたしでも、先生の記憶に残ることができたというわけだ。)
ええと、この最終講義が1月14日(土)。会議を入れないようにしないと。


さて、次は何を読もうかな。いよいよりつこさんオススメの『チボの饗宴』にチャレンジしますか。
同居人の本棚から発掘しなくちゃいけないんだけど。