西荻窪、神保町、吉祥寺

今日は長野へ出張。後輩と新幹線に乗った。
仕事のことを夢中で喋っていたのだけれど、途中で後輩が「わー、紅葉!」と叫んだ。
今年初めての秋景色に二人でしばし見とれる。
「もう秋だね」「今年もあと2ヶ月…」と言い合ってから、
本作りのタイムリミットも、着実に近づいていることをあらためて実感。
来年2月くらいまで、間違いなくデスクワークが山積みなのだけれど、
出張仕事も会議の運営も外せないので、後輩と二人で「うわあ、どうしよ−」と言い合う。
が、後輩のキャラクターのせいか、いまひとつ切迫感がない。
十五歳以上年下の彼女だが、度胸の据わったなかなかの大物なのだ。


さて、前回は九州出張から帰ってきてすぐに記事を書いたのだが、
それから今日までの間に、複数の人とお酒を飲む機会が三度ほどあり、
いずれもすごく楽しかったので、そのことを書いておこう。
まず、一番の高級店は、西荻窪にあるフレンチ・レストラン。
わたしの先輩と後輩と先輩の友人という組み合わせだったのだけれど、
いやもう、大人の飲み会でした。
先輩と先輩の友人が異業種の超エリートビジネスマンということもあり、
仕事や人生に対するものの考え方とかスタンスのとりかたなど、
ふだん自分が接している(同居人を含めた)世界とはずいぶん違っていて新鮮だった。
どちらがいいとか悪いとかではなく、こういう全然違う世界の人とつきあう機会は貴重だな〜と思った。
ちなみに、フレンチはものすごく美味しかった。けど、高かった。第一弾、西荻窪の夜。


その数日後、仕事上では大事な区切りの会議があり、
その打ち上げで著者の方々と先ほどの後輩もいっしょに、神保町にある翻訳学校時代の行きつけの飲み屋へ。
仕事に一区切りがついたという達成感と高揚感で、打ち上げは大変な盛り上がり。
「最近はあまり読まれなくなったけどかつてはよく読まれた通好みの文筆家」の名前を挙げあう、という、
他人が聞いたら何がおもしろいんじゃい、というような遊びや、
以前もちょっと書いたけど「近代を代表する女性詩人のうち、つきあうなら誰がいい?」などという不届きな質問がとびかい、
またたくまに時間が過ぎた。第二弾、神保町の夜。


そして先日、わたしはなーんの関係もないのだが、同居人が仕事関係の方と飲むという席に、勝手におじゃまさせてもらった。
話題は、文学作品の翻訳。それも古典。長編。
翻訳と編集の当事者である二人は、「大変だ、大変だ」と言っていて、それはもちろんそうなのだろうけれど、なんだか二人とも楽しそう。
いいな、いいな、と思いながら話を聞いていたのだが、途中、ついにわたしに活躍の場がおとずれた。
二人の話題は、「おななしいただく」などという場合の送りがなの表記に移っていた。
「お話しいただく」か、「お話いただく」か。
「それはですね〜」とわたしはえらそうに話した。
「わたしのギョーカイでは、お話しいただく、が正解です。お話をする、お話しください、というように使い分けます」
「ふーん」と二人は聞いていたが、少しは役に立っただろうか。
翌日、同居人がウェブで調べたところ、ライバル会社のHPが出てきて、わたしが言ったのと同じことが書いてあったそうな。
もちろん、一般書では「お話いただく」という表記も普通に使われているし、わたしも自分が使う分には何の抵抗感もないのだが。
というわけで、他の人にはな〜んの興味もないようなハナシでまたしても盛り上がり、
「本ができあがるのを楽しみにしてます!!」と叫んで先生とはお別れ。
ちょっとばかり高い本だけど(でも西荻のフレンチよりは安い)、自腹で買うぞー! 第三弾、吉祥寺の夜。


そんなこんなで落ち着かなくて、結局読んだ本は、先ほどの「異業種の先輩」がすすめてくれた、「ツレがウツになりまして」という漫画本のシリーズ2冊のみ。
なかなかおもしろかったけど、漫画なので、感想は省略。
3日はひさびさの休日だったので、仙川の書原へ。
買いそびれていた「モンキービジネス最終号」を複雑な気持ちで購入。
柴田さんの手書きの挨拶文を読みながら、文芸誌の未来、文学の未来について考える。
りつこさんおすすめの『チボの饗宴』を手にレジへ向かうも、途中で同居人に遭遇し、「その本うちにあるのに……」と囁かれ、あわてて書棚へ戻す。
新刊書籍の棚から、翻訳学校時代の友人の新刊を抜き出し、訳者あとがきを読む。
震災のことに触れたあと、「この作品に出会えたことを、そして、翻訳できたことを、しあわせに思います。」と結ばれた文章に、思わず涙が出そうになった。
翻訳仲間の中での一番の出世頭で、はなやかに活躍しているように見える彼女だけれど、これまでの地道な努力をわたしはよく知っている。
「いい仕事してるね」「これからもがんばって」という気持ちをこめて、その本をもってレジへ。
昨夜、遅くに帰宅するとポストには「すばる」が届いていた。
ぱらぱらとめくる。読んでみたい作品がいくつかある。
鞄のなかにはまだ1ページも読んでいない平野啓一郎の文庫本が。
読みたい本、読むべき本が、あとからあとから出てくる。なんとしあわせなことか。


今夜は同居人が学会で不在。たぶん夜遅く帰ってくるのだろう。
出張帰りでちょっと疲れてるけど、せっかくだから本を読んで夜更かししよう。
ひとりだから紅茶でもいれて、平野啓一郎から読み始めようか。番外編、北烏山の夜。