『トモスイ』『渚にて』読了
仕事がもうあと少しでひと段落、というところで地震があり、
なんだかんだでいろいろなスケジュールが変更になり、
それでもやっと、今週でほんとにひと段落。
ひと段落したら絶対に読まなければ……と思っていた本からまず読み始めた。
- 作者: 高樹のぶ子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/01
- メディア: 単行本
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高校生や十代では??なのはもちろん、
二十代、いや三十代でも、この小説、とくに表題作の匂いたつようなエロい感じは、
理解できないように思う。
「ユヒラさん」というネーミング、なぜか敬体で会話をする登場人物、夜釣りという設定、
これは川上弘美の小説だよ、と言われても違和感がないくらい、川上弘美チックな書き出しなのだけれど、
読みすすめるうちに川上弘美の小説にはない、密度の濃い色気が小説全体に充満してくる。
「いいかい、準備いいかい」
とユヒラさんが息を詰めた声で言うので、わたしはローソクの蝋が手のひらに張り付くのも構わず、舟の縁を握りしめて、うんうんと頷いた。
「いよいよだよ、本当に行くよ」
「うん、いいよ、ユヒラさん、来てもいいよ、早く早く」
「よし、行くよ」
「うん、待ってるよ、いつでもいいよ」
(中略)
「ちょっと休憩してもいいかな」
「いやだ、ユヒラさん、いやだ、もう待てない」
(17−18ページ)
この二人は、単に釣りをしているのだ。
それなのに、なぜこんな会話をしなくちゃいけないんだ?
すごく変なのに、違和感がない。
このあと二人はトモスイとよばれる貝の剥き身みたいなものを釣り上げ、
二人で突起部分と穴の部分の両方からちゅるちゅると吸うのだ。
お互いにときどき、トモスイから口を離して、ね、と言い、ね、と答えたりする。
わたしにこの本を読め、と勧めてくれた方の期待どおり、
「くうううう」と唸らずにはいられない、大人の小説はこうでなくちゃ、と思わせる表題作であった。
……が、正直なところ、ほかの作品はいまひとつ、びびっとこなかった。
どうもわたしは短篇小説集を読むのが苦手らしく、
最初の1作、2作くらいは丁寧に読むのだけれど、3作目、4作目くらいになるとだんだん飽きてきてしまうらしい。
途中ちょっとだれて、最後の作品を気合を入れなおして読み、
「ああ、最初の作品がいちばんよかったなあ」と思うことが多い。
というわけで、「トモスイ」のちゅるちゅるという音や舟の揺れを余韻のように感じながら、
次は全然違うタイプの小説を読もう、ということで、
仙川の書原で平積みになっていたネヴィル・シュート『渚にて』を読み始めた。
- 作者: ネヴィル・シュート,佐藤龍雄
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/04/28
- メディア: 文庫
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なぜか未読だった。
曖昧な記憶だけれど、たしか翻訳学校のI先生が、「おすすめの本を一冊だけあげるなら」という話題のときに、
この本をあげていたと記憶している。
2年前に新訳が出たこの本を、このタイミングで平積みにしたというあたりは、さすが書原。
何しろこの小説は、「第三次世界大戦が勃発、放射能に覆われた北半球の諸国は次々と死滅していった」という設定なのだから。
読み始めたら止まらず、深夜(というより明け方)までノンストップで読み続けて読了。
ものすごく良かった。ひさびさに熱中して読んだ海外エンタテイメント、やはりベストセラーとなっただけのことはある。
1957年当時は斬新だったかもしれないが、今となってはあまり目新しくもない設定だし、
一歩まちがえば安易なお涙頂戴ドラマになりそうで、ああ、アメリカ映画が好きそうな話ね、とかたづけられてもおかしくない。
でも、登場人物ひとりひとりについて描かれるエピソードが、すべてその人のそれまでの人生をみごとに描き出していて、
そうだよな、生きるってそういうことだよなあ、と思わずにはいられない。
これはやはり、一流のエンタテイメント作家の技術の妙、なのだろう。
語りはあくまで淡々として、大声や怒声や泣き声はほとんど出てこない。
激しい感情の描写はほとんどないのに、人々の心の揺れや胸の痛みは、確実にこちらに伝わってくる。
巻末の鏡明さんの解説にあるように、
世界の破滅を描いた小説なのに、読後感はやさしく穏やかで、
「生きる力がもりもり沸いてくる」ってわけにはいかないけれど、
わたしの人生、そう悪くはないよね、ってくらいには元気づけてくれる小説だった。
『トモスイ』と『渚にて』、まったく違うタイプの小説を2冊読了し、満足。
仕事がやっとひと段落したのだから、
これからは読書に励むぞー。
ちなみに3月いっぱいお休みしてしまったテニスも先週(4月1日)から再開。
読書&テニス三昧の至高の日々を過ごすのだー。