ぐったり週末

前回、「どんとこい」なんて「トリック」に出てくる超常現象の本みたいなことを書いたのだけれど、
いやはや、わたくしも年をとったもので、
2日目も3時間の会議+飲み会を終えて(しかも通常どおりの7時間勤務を終えた後に)、0時過ぎに帰宅したときには、
さすがに「毎日更新」のためにパソコンを開けるパワーすらなく、
倒れ込むようにしてふとんへ直行。
3日目はさらなるハイテンションで午前中から休日出勤し、めくるめく3時間+飲み会をこなし、
翌日は休みということもあってつい飲み過ぎたようで、
先生方や同僚と別れて井の頭線に乗るころにはすでに頭は働かなくなり、
久我山から自宅までの道を、ゆーらゆーらといつもの倍ぐらいかけて帰ってきた。


というわけで、今日はぐったり週末、のんびり休息の日曜日。
自転車で吉祥寺に出かけ、食事・買い物をしたあと、もっともくつろげる場所、本屋へ。
久しぶりなので、心惹かれる本はたくさんあったのだけれど、
ことあるごとに鞄の中のキンドルや、机の上に積んだままになっている「水死」が思い出されて、
プラプラみてまわるだけで、結局めずらしくも一冊も買わずに店を出た。


パルコの地下の本屋は、レジ横の目立つところに、書評でとりあげられた本をまとめたコーナーがある。
一番上の棚は、やはり「朝日新聞」。
誇らしげに並べられた本の中に、知人の翻訳している本があった。


今朝、いつもの日曜日のように新聞の書評欄を読んでいて、あ、と思った。
翻訳学校時代の仲間が訳した本が、かなり大きくとりあげられている。
しかも、書評の最後に、この本の訳者が手がけた本にはハズレがない、「もはや信頼のブランドだ」という褒められよう。
これは、すごい。
いつか小川洋子がどこかで、柴田元幸が訳している本だと、安心して読める、というようなことを書いていたけど、
いわゆる「訳者読み」されるようになるなんて、翻訳者冥利につきるではないか。


誤解している人もいるようだからあらためて書くけれども、
翻訳というのは、決して儲かる商売ではない。
また、英語力があれば、すぐに仕事ができるようになる、というものでもない。
だから、翻訳学校には高学歴の方、英語力に自信のあるすぐれた方が大勢、
意気揚々と入学してくるけれども、なかなか息が続かない。
「何年もデビューできずに勉強を続けている人は力がない人で、
自分だけは1、2年もやればデビューできるのではないか」と内心思っている人も多いのか、
仕事の話がないまま、3年、4年たつうちに、学校の仕事の斡旋の仕方や先生の評価基準に疑問を持つようになり、
やがて、「この人たちには見る目がない」と学校や業界に見切りをつけて、離れていってしまう。


そんな中で、彼女はものすごい努力家であり、粘り腰だった。
今となっては僭越至極だが、当時、翻訳学校の中では一応、わたしが先輩格だったので、
訳文を見たことがある。几帳面に、一生懸命訳しているけれど、文章が生硬な感じがした。
少し迷ったけれど、彼女のまじめさに敬意を表して、その感想を率直に、具体的に伝えた。
編集の仕事をするようになってますます感じるけれども、
だれでも自分の書いた文章に意見されるのは、嫌なものだ。わたしだって、もちろんそう。
でも彼女は、とても真剣に受け止めてくれた。
この人はきっとこの先、翻訳家として一本立ちするだろうなあ、と思った記憶がある。
一本立ちどころか、いまや「信頼のブランド」だ。拍手喝采、である。


先日も朝日の書評で、知人の翻訳がとりあげられていたし、
書店で開かれたトークショーに出た友人もいる。
地味に翻訳を続けているのに、意外にも訳書が版を重ねて、びっくりしている友人もいる。
最近やっと、彼らの活躍を素直に喜べるようになった。
「わたしだって、続けていれば……」という気持ちが、まったくないか、と言われると自信はないけれど、
でも今は、彼女たちだからこそ、ここまでこれたのだ、と思う。
彼女たちにはいくつか共通点がある。
まず、勤勉。それから、自信と謙虚さのバランスがいい。そして、この仕事に対する愛がある。
そして編集者となった今、わたしが翻訳の仕事を頼むとしたら(いや、残念ながらそういう機会はなさそうなのだが)、
やっぱり、勤勉で、自信と謙虚さをあわせもち、翻訳の仕事に対する愛情をもった人にお願いしようと思うだろう。


そういえば、今朝の朝刊には、センター試験の国語の入試問題も出ていた。
まだちゃんと問題まで目を通していないが(これは仕事モードなので、月曜日以降にと思って……)、
現代文の出典が、岩井克人中沢けいかあ、というところに、いろいろと思いをめぐらせている。
これからしばらく、いろいろなところでセンター試験の問題評が出るだろうけれど、
いわゆる教育関係者ではなく、一般の本読み人たちは、どんな感想を持つのだろう。
聞いてみたいものだ。