編集は人

多くの人がそうであるように、この1、2週間はイベント続きで、
読書もほとんど進んでいない。
(仕事がらみで子どもの本は何冊か読んだけれどここには書かない、というか書けない。)


年度末のイベント続き、といっても、
どれも友人・知人の旅立ちを祝うというもので、
自分の生活はまったく変わっていない。
相変わらず、少なからず違和感をもちながら、担当の仕事に邁進している。


結婚式や歓送迎会などのイベントをとおして思ったのは、
編集の仕事は人が基本だなあ、ということ。
さまざまなイベントでいろいろな人と出会うのだけれども、
そのたびに「この人(たち)とこんな本をつくってみたいなあ」と思うのだ。
「文学」とか「翻訳」とか、自分の関心・興味が深い分野になると、
「この人とこの人を会わせてみたい」というふうに、
どんどん自分の知っている人同士を勝手に組み合わせて、
新しい企画が生まれる瞬間を夢見たりする。
「つくりたい本」が先にあるのではなくて、
「いっしょに仕事をしたい人」との出会いが先にあって、
その人の持ち味をいかして何かおもしろいことができるんじゃないか、と考えていくのが、
編集の仕事の醍醐味なんじゃないかなあ、と思う。
うちの同居人が7年間、編集長の仕事をなんとかつとめあげられたのも、
個性的かつ魅力的なたくさんの「人」との出会いに支えられてのことだったのだと、あらためて実感。
早速あたらしく担当している単行本の「著者」について、その本の図版について、タイトルについて、
事細かに話し続ける同居人を見るにつけ、
職場の上司に対する愚痴・不満が中心になっている最近の自分の仕事ぶりを、深く反省するのだった。


そんなことを思いながら、先日、新入社員歓迎の花見の会があり、出席。
その席で、わたしが出していた「1△○周年記念企画」がボツになったらしい、ということを知る。
もともとわたしの所属する部署では、個人が企画を出すという機会はまずないのだけれど、
このたび会社が創立1△○周年を迎えるにあたり、全社員が自分の所属する部署にかかわらず企画を出していい、
ということになった。
ただ、会社がどんな企画を期待しているのか、どの程度くわしい企画書を出せばいいのか、
まったくわからない。企画の窓口は自分の部署の管理職のみ。
社内政治にうといわたしはだれに相談してよいかもわからず、
まあ、だめもとでだしてみようと、会社の性格やこれからの方向なども意識して、タイプの異なる3本の企画を出してみた。
あまり詳しく書くとかえって嫌がられると思い、A41枚に3本まとめて書いた。


企画がボツになるのはいい。
でも、自分が出した企画が、だれにどのように審査され、どうしてボツになったのか、
ほかにいくつくらい企画が出たのか、どの企画が採用になったのか、何も情報が入ってこないのだ。
花見の席で、たまたまわたしの企画書を見たらしい先輩編集者から、「あんな中途半端な企画じゃ……」と言われたので、
ちょっとむっとして、「どこがどう中途半端なのか教えてください。直して再提案しますから」と言ったら、
「まあ、そんな些細なことでむきにならないで」と言われて、ほんとうにがっかりした。
わたしにとってはその3本の企画はどれも、先に書いたような貴重な人々との出会いの賜物で、
わたしが出会ったすぐれた書き手たちの名前が、たくさん入っている。
それに対してむきにならなくて、何にむきになれるというのか。
瞬間風速的に、「今担当している仕事が終わったら即、会社を辞めよう」と思った。


でもそのあと、別の先輩編集者が、
「あの企画はいい企画だ」と言ってくれた。そういえば、
その前に話したまた別の編集者も、「ぼく的にはいい企画だと思ったんだけどね」と言ってくれていた。
「ただ、……」やはりわたしの企画の出し方が不十分だった、ということだ。
会社が今求めているもの、考えている方向についてのリサーチが足りなかったし、
本気で企画をとおしたかったら、「社内政治にうとい」なんて言ってないで、
いやらしく「根回し」だってすればよかった。


「だれかが自分をひきあげてくれるのを待っていてもだめだ」
という先輩のことばが、わたしの甘ったれた精神には刺すように痛かった。でも同時に、
「あの企画書をみれば、あなたの『文学』への思いはよくわかるし、それを持ち続けるべきだ」
とも言ってくれた。
こういう先輩もいるのだから、と、先ほど瞬間風速的に抱いた思いは撤回。
例によって自分の単純さ加減にあきれかえった花見の宴だった。


そういえば、柴田元幸さん責任編集の文芸誌が4月19日に創刊とのこと。
やるなあ、ヴィレッジブックス。
目次を見たけれど、なかなかおもしろそうだった。
翻訳家としての柴田さん、米文学者としての柴田さんはよく知っているけれども、
「編集者」=同業者としての柴田さんって、どんなかしら、と興味がわいて、
5月8日のジュンク堂トークショーに申し込もうと思ったら、既に満席、とのこと。
やはり柴田元幸さんの人気はすごいんだなあ。


沖縄旅行から続いていたイベントラッシュもそろそろひと段落。
読書とダイエットに励むぞ〜。